崩れ始めたサプライチェーン「サプライウェブ」に進化へ…ローランド・ベルガー パートナー 小野塚征志氏[インタビュー]

崩れ始めたサプライチェーン「サプライウェブ」に進化へ…ローランド・ベルガー パートナー 小野塚征志氏[インタビュー]
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「ロジスティクス4.0-物流の創造的革新」に続き、2020年12月に「サプライウェブ~次世代の商流・物流プラットフォーム~(日本経済新聞出版)」を出版。内閣府「SIP スマート物流サービス 評価委員会」委員長、国土交通省「2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会」構成員などを歴任するローランド・ベルガー パートナーの小野塚征志氏に、サプライウェブとは何か、これからの調達・生産から販売体制について聞いた。

小野塚氏が登壇する3月29日開催のオンラインセミナー 「サプライチェーンからサプライウェブへ~物流・商流の未来~」はこちら。

サプライチェーンが崩れてきている

---:2冊目のタイトルにあります、”サプライウェブ(クモの巣)”とは何でしょうか?

小野塚氏:近年のデジタル化の進展などにより、サプライチェーンがサプライウェブへと進化しているのではないかと分析しています。

サプライチェーンマネジメント(供給連鎖管理)は1980年代に生まれた言葉で、製造会社などは、調達、生産、管理、輸送、販売といった一連の供給連鎖で全体の最適化を行ってきました。例えば生産コストは上がるが、物流コストを削減できる。共通のシステムや物流のパレットを使うなど、こうして川上から川下までチームや系列を作ってマネジメントしてきました。

ところがこのサプライチェーンが、第四次産業革命や価値観の多様化などにより崩れようとしています。顧客と常時つながるようになり、そのニーズに応えていこうとすると川上から川下のサプライチェーンでは対応できません。連鎖の過程にあった部品メーカーと直接やりとりした方がより効率的でニーズに合わせた動き方ができるのかもしれません。したがって、川上や川下の区分なく、最適な調達先や納品先が選択されるサプライウェブ(クモの巣)へと進化していっていると見ています。

プラットフォームビジネスとしての展開の可能性

小野塚氏:サプライウェブは、プラットフォームビジネスとしての展開の可能性があるかと思います。3つの領域での展開が予想されます。マニュファクチャリングプラットフォーマー、ロジスティクスプラットフォーマー、ユーザープラットフォーマーです。

マニュファクチャリングプラットフォーマーの例として、板金・掘削加工の発注者と加工会社をマッチングするプラットフォーマー「CADDi(キャディ)」があります。発注者が図面データのアップロードをすると、市場の製造原価が自動計算されて見積が提示されるので、それを受注したい会社が手を挙げる仕組みになっており、発注作業や受注の手間を効率化したり解消したりすることが可能となります。その他の事例としてFicitivがあります。

ロジスティクスプラットフォーマーとしては、中国の満帮(マンバン)とボッシュがあります。例えばマンバンは運送会社と荷主をマッチングするプラットフォームを提供しているのですが、単なるマッチング手数料で収益を得ようとするのではなく、信用情報を基盤とした手数料収入で稼ごうとしている点に注目です。またボッシュの自動車のリモート管理を可能とするCCUは配車プラットフォームとしての可能性が想定されます。

そしてホンダのインターナビを使った観光産業の高度化、農機の稼働だけではなく作物の生育や土壌環境のデータを収集・外販するJohnDeere(ジョンディア)のデータビジネスは、ユーザープラットフォーマーの先進例だと考えています。

今なら誰でもプラットフォーマーになれる

小野塚氏:プラットフォーマーと言えばGAFAなどの巨大企業を連想します。しかし3つの領域と事例を紹介したとおり領域ごとに様々なプラットフォームが必要となり、ゲームチェンジが起きようとしているところですので、今なら誰でもプラットフォーマーになれる可能性があるのです。

---:既存のビジネスが大きくなり新しいことがチャレンジしにくくなっている企業はどうしたらよいのでしょうか?

小野塚氏:目指す姿を創造し、新規の取組みは、既存事業と切り離して「両利きの経営」を実践する必要があると思います。

人に任せることも大切

---:GAFAやMaaSなどがキーワードになりプラットフォームに対する議論は一巡したかと思います。これから日本企業に問われることは何でしょうか?

小野塚氏:これまでの日本のプラットフォームの議論は、”既存ビジネスの延長”だったのではないでしょうか? そして各社はプラットフォームの自前化を図ろうとしました。その自前化が難しいことが明白になってきているのだと思います。

例えば「2025年の崖」という問題があります。高齢化社会に加えて、IT人材が40万人以上不足するという問題です。日本の企業がプラットフォームを自前で開発しようとすると、人材が足りない上に、有能な人材を獲得できず、中途半端なプラットフォームが出来てしまいかねないのです。

したがって、これからはある程度は「人に任せる」という戦略にでてもよいのではないでしょうか。

真のコアコンピタンスを明確に

---:「人に任せる」と、顧客接点が無くなったり、物流が滞ったりするなどの危険性が指摘されていますが、どう考えられていますか?

小野塚氏:自社の真のコアコンビタンスは何かを明確にすることが大切ではないでしょうか。

顧客接点を作るために直営店を残す、もしもの時に備えて自前の物流も持つといった場合は、すべてが自社のコアコンピタンスになります。サプライチェーンのすべてをコアコンピタンスと考えるのではなく、他社に真似できない自社の強みを追求する必要があるでしょう。

また、プラットフォーマーにならず、プラットフォームを使う側になると選択した場合でも、デジタル化は必要です。自社業務のデジタル化が進んでいなければ、プラットフォームを使うことすらできないからです。

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《楠田悦子》

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