アンシスが提供するモデル開発の統合プラットフォーム…CASEに対応して

ANSYSスイーツ2020R1発表
  • ANSYSスイーツ2020R1発表
  • 内装の複雑な形状にテクスチャをマッピングし、照明効果もみる
  • AIは運転の認知領域から判断領域へとひろがる
  • リチウムイオンの充放電特性もモデル化された
  • 機能安全にくわえセキュリティ機能も要求される
  • 5G向けおアレイアンテナシミュレーター
  • 電子基板の立体形状シミュレーション

2月5日、アンシスが自社のプロダクトスイーツの2020年最初のリリースアップデートを発表した。アンシスは各種シミュレーションモデルのソルバー群を持つグローバル企業。OEMやサプライヤーにとってツールベンダーのひとつかもしれないが、そのプロダクツポートフォリオは広く、モデル設計のプラットフォームといえるものだ。

モデル開発の現場

現在、建設や製造業において、シミュレーションは欠かせないツールだ。ものづくりとはいうが、設計や開発の段階では実験や試作を極力減らす方向にシフトしている。実験や試作でしか得られない知見は普遍だが、それだけに頼るものづくりは、時間とコストがかかりすぎ、現代のビジネスにはそぐわない。また、バーチャルだからこそできる実験が、人力では発見できない分子や素材の組み合わせを可能にし、製品や部品の基本性能のブレークスルーを可能にする。

自動車業界においては、自動運転技術の開発でシミュレーション技術の重要度が高まっている。自動ブレーキや自動運転車両の開発には、実際の事故状況での動作確認が欠かせないが、このようなエッジ試験はシミュレータの独壇場だ。シミュレーションによる試験と調整がなければ不可能といっていいだろう。

従来のECU開発なら各種センサーの入力はただの電気信号でよく、実車の代わりにプログラムされたコンピュータとシグナルジェネレータがあればよかった(もちろん、これはすでにカーシミュレータというソフトウェアに置き換えられているが)。自動運転の場合、カメラ画像の入力をバーチャル化するハードウェアループ開発環境が主流になりつつある。

シミュレータ(構造や自然現象をモデル化して擬似的な値を返すソフトウェアをソルバーという)の適用範囲はこれだけではない。すでに、エンジンの燃焼。空力における流体ソルバー。機構部品や構造部品の強度、特性のためのソルバー。電子回路ソルバーによる回路デバッグ、部品配置・パターン配線によるノイズ特性の向上、消費電力最適化やヒートシンク設計。さらに内装の複雑な形状に対するテクスチャマッピングのシミュレーション。照明やライティングの光学系ソルバーなど、およそ関係しないコンポーネントは存在しないといっていい。

CASE車両では、これに前述の自動運転用の環境シミュレーションをハードウェアループへの組み込みがすでに始まっている。電動化車両は、モーター、バッテリー、インタバーター制御とバッテリーマネジメントが新たなコンポーネントとなる。モーターと制御ユニットについては従来の機構部品や物理特性のソルバーの応用範囲と考えられる。バッテリーについては、電極素材と電解質については物性ソルバー、化学ソルバーの範囲といえる。

バッテリマネジメント・機能安全・セキュリティ・AI精度の評価などを強化

アンシスは今回のアップデートで、流体ソルバーにリチウムポリマーの充放電特性の物理モデルを追加し、バッテリマネジメントの開発を支援するという。

コネクテッドカーに関するアップデートは、5Gの通信モジュール開発に関係するアレイアンテナの電界強度のソルバー機能が追加された。アンテナ素子の特性をライブラリ化し、任意形状のアレイアンテナの配置ごとのシミュレーションが可能になる。コネクテッドカーおよび自動運転車両では、機能安全(ISO26262)の基準、意図した安全性能(SOTIF:ISO21448)、サイバーセキュリティ対策(ISO21434:策定中)の確保も課題となっている。標準化された安全性について、アンシスは「medihi analyze」という解析ツールを持っている。現状、機能安全であるISO26262の解析には対応しているが、今回のアップデートでSOTIFとISO21434に対応した。

自動運転の不幸な事故としては、2018年のUberの事例がある。夜間、自転車を引いていた歩行者を認識できずに起きた事故だ。これについて、事故車両は4秒前まで対象を自動車と認識しており、自転車を認識したときには、緊急ブレーキの動作が間に合わなかったことが報告されている。

現在、自動運転の信頼性評価は、セグメンテーションや形状認識のような検知機能から、それをAIがどう判断していたのか、認識・判断を評価する方向にシフトしている。この分野では「SCADE VisionAV」という製品が、機械学習の認識精度の落ちるポイントや状況を可視化、検証できる。

CASE車両の事故では、機械学習がそのときどのような状態にあったか、どう認識していたが重要とされる。機械学習やディープラーニングの動作は検証不可能だが、状態の保存は可能だ。CASE車両の事故について、AIがなぜこのような結果をだしたかはわからないが、どのような認識をしていたか(例えば、人と認識した確度。人であるパーセンテージ)は調べることができる。メーカーは、最低でもこれを説明する必要があるが、ここで重要なのは、開発時を含む膨大なログデータの収集・保存・管理だ。

コンポーネントECU群を統括する車両自律制御ユニットへ

アンシスは、設計やシミュレーションに関連する大量のデータを統合管理する「Minerva」を提供している。開発環境やシミュレーターはさまざまなベンダーが手掛けており、扱うデータも製品やソリューションに依存したものになる。Minervaは、データベースそのものではないので、各種CAD/CAE、シミュレータ、モデリングソフトのデータに対応している。アンシスのスイーツ製品は、ソルバーやモデリングを含め、相互連携が考えられている。

アンシスは、もともとはCAD/CAEおよびソルバーのベンダーだったが、現在はポートフォリの拡張と、ベンダーを超えた設計シミュレーションプラットフォームとしての機能を広げている。OEMやTier1サプライヤーは、独自の設計・開発環境を持つところもある。しかし、CASE車両開発においては、コンポーネントごとのECUを統合化する、またはECU群を統括する制御ユニット導入する動きがある。テスラは以前から統合ECU方式を採用している。エンジンやサスペンションのコンポーネント制御から、機能安全やセキュリティといった車両全体をシステムととらえたアプローチは、自動運転やコネクテッド化が進むほど顕著になってくるはずだ。

濫立するADAS機能を整理統合する

統合ECU方式は、車両開発プロセスにも影響してくる。ADAS機能と自動運転機能が進化するほど、両者の境界があいまいになってくるはずだ。現在、各車のADAS機能は、トラクションコントロール、緊急ブレーキ、踏み間違い防止、トルクベクタリング、ブレーキベクタリング、アダプティブクルーズ、レーンキープなど、それぞれが独自にスロットル、ブレーキ、ステアリングに介入している。名称も細かい制御方法もばらばらで、似たような名称で微妙に機能が異なり混乱も生じている。

後付け式の分散制御は冗長性が期待できるが、制御が干渉しやすくクリティカルな強調制御が難しい。テスラは、衝突予測でブレーキと回避操作を同時に行う機能をソフトウェアアップデートで実装できるが、それ以外のADAS車両はおそらくECUの追加・交換が必要になる。

CASE車両において、統合制御やコンポーネントのオーケストレーションが重要になってくると、モデル設計においても統合的な開発環境が意味を持ってくる。アンシスの、CAD/CAE、広範囲なソルバーポートフォリオ、データウェアハウス、クラウド環境に対応するソリューション戦略は興味深い。

NVIDAが「謎の半導体メーカー」と呼ばれるディープラーニングの開発プラットフォームならば、アンシスはさしずめモデル開発の統合プラットフォームを提供する「謎のCAD/CAEメーカー」とでもなるのだろうか。

《中尾真二》

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