INCJ志賀会長「透明性を保ちつつ、日本の産業競争力強化に貢献していきたい」

INCJの志賀俊之会長
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官民ファンドのINCJ(旧産業革新機構)は7月24日、定例の記者会見を行い、前年度の取り組みと今後の課題について説明した。そのなかで、志賀俊之会長(元日産自動車副会長)はリスクマネーを供給する官民ファンドの重要性を強調した。

「ベンチャーキャピタルがどれくらいベンチャー企業に投資しているかというと、日本が2000億円弱に対し、中国は3兆3000億円、米国は9兆5000億円で、日本はまだまだベンチャー企業への投資が少ない。1件当たりの額にしても、数億円と少額だ。このようになかなか民間だけでは足りていないので、官民ファンドとして資金を提供していくニーズがあると考えている」と志賀会長は説明する。

ただ、官民ファンドであるが故に留意すべき点が3つあるそうだ。1つ目は市場経済を歪めるような官民資金による投資をしてはならないこと。2つ目は公的資金だからこそ、高度なガバナンスと投資の成果についての一層の情報公開が求められること。そして3つ目が丁寧なバリューアップとEXITを通じて社会的意義と投資リターンの両立を目指すことだ。

そのうえで志賀会長は「他国ではイノベーションを起こすために官民一体となった活動が行われている。したがって、官ができることは官でやる、民でできることは民でやるということでは日本はなかなかグローバル競争に勝っていけない。そうした中でINCJは官民ファンドとしてのガバナンス、透明性を保ちつつ、日本の産業競争力強化に貢献していきたい」と力説した。

しかし、INCJについてはさまざまな問題が指摘されている。例えば、親会社のJIC(産業革新投資機構)は昨年末、高額の成功報酬制度を巡って民間出身の取締役9人全員が辞任。今もなお社長をはじめ経営陣が不在で、文字通り開店休業状態だ。

また、液晶大手のジャパンディスプレイ(JDI)への過去の金融支援についても、INCJの責任問題が取りざたされている。なにしろJDIはINCJから国のお金として4220億円の支援を受け入れたが経営危機に陥っており、2346億円の回収が難しくなっているからだ。

今回の会見でも、質問はその問題に集中した。それに対して、志賀会長は「その時点では事業として合理性のある判断をした。合理的でない判断をしたつもりは毛頭ない。ただ、こういう形で指摘を受けることは、さらにわれわれが投資に係わるときの姿勢を正して、もう少ししっかりと説明する必要があったと思う」と回答。

さらに角度を変えた質問には「私は民間企業で長く子会社の経営を含めて行ってきて、そのなかで増資をして助けるとかしてきたが、INCJのその都度の追加投資の判断はおそらく民間でも同じ判断をしているという自信がある。官民ファンドなので何らかの横やりがあって判断を曲げたわけではない」と答えた。

さらにこんな質問も飛んだ。「当時の判断は合理的だったというのは分かるが、今時点ではどうなのか」

それに対する志賀会長の回答はこうだ。「今時点でどう判断するかということではなく、これからの展開を含めて、損失を最小化できる方法、あるいは投資しているものが回収できる可能性があるのか、そういうものを総合的に判断していく必要がある。これは事業投資なので100%全部成功するものでもない」

いずれにしても、INCJは3つの留意すべき点を念頭に置き、日本の産業競争力強化の一翼を担ってもらいたいものだ。

《山田清志》

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