在日カナダ大使館は1月21日、CUSMA(カナダ・米国、メキシコ貿易協定)、いわゆる「新NAFTA」についての説明会を開催した。その中で、カナダ政府代表の交渉官でシニアアドバイザーのマーティン・ソーネル氏はその舞台裏を披露した。
新NAFTAは2018年11月30日に3カ国の首脳によって協定に調印されたが、その交渉は非常にタフなものだったという。ソーネル氏によると、こんな感じだった。
カナダ側は交渉が始まる際、自動車業界のステークホルダーと相談。そこではNAFTAに関して一致した見方だった。それは、自動車メーカー、部品メーカーとも現状の原産地規制に満足していたので、変更する必要はないということだった。
そこで、ソーネル氏らカナダ側は「今の状態が業界にとって健全である、生産もかなり高い水準を維持している、雇用も増加して3カ国とも好調である。変更する必要はない」と米国側に訴えた。
ところが、米国側は違った。トランプ大統領は「NAFTAはうまくいっていない、米国には機能していない」と言い、「変更するか、撤退するかしかない」と表明した。そして、米国側は変更する際の条件をいくつも列挙してきた。
例えば、原産地規制の要件を維持し、より多くの部品をカバーすること。パーツだけではなく、鉄、ガラス、プラスチックなどの部品を生産する材料も含めて欲しいと拡大を求めてきた。さらに、域内原産割合を現状の62.5%から85%まで高めることを要求。また、米国で車両が優遇を受けるためには、50%以上が米国のコンテンツでなければならないと言ってきた。
これらの提案について、カナダ側はすぐさま拒否。メキシコも拒否した。「米国が考える原産地規制はカナダにとって受け入れがたいものだったのです。私はその交渉の場でこういいました。米国の要求を受け入れたら、あるいはこれを元に交渉を進めたら業界に非常に悪影響が出る。これから業界が発展していけなくなると訴えたわけです」とソーネル氏は振り返る。
そして、カナダ側は3カ月ほどかけ、対案をつくり、2018年1月に米国側に渡した。その後、春から夏にかけて交渉が進められた。「われわれはできる限り米国をプッシュして、3カ国それぞれに利益が出るようなものにしていきたいと考えていた。それはある程度成功したと思う」とソーネル氏。
11月30日に調印された新NAFTAは主要5項目から成り立っている。その5項目とは、車両全体の原産資格割合(RVC)が75%、7つのコア部品(エンジン、トランスミッション、車体、ステアリング部品、サスペンション、アクセル、リチウム電池)のRVCが75%、アルミニウムと鉄鋼製品のRVCが70%、時給16米ドル以上の完成車工場の労働者比率が40%、主要部品(ベアリング、燃料ポンプ、スターター、バンパー、ブレーキ、クラッチ、座席など)のRVCが70%というものだ。
アルミニウムと鉄鋼製品以外は3年間の猶予期間があるものの、その5項目すべてをクリアしなければ、税の優遇は受けられない。もちろん、材料が域外から輸入された場合はRVCから除外される。
ただ、ソーネル氏によると、その計算方法や例外がいろいろあるそうだ。例えば、7つのコア部品については、バスケット方式と言って、7つのコア部品を合計して計算してもいいのだ。また、時給16米ドル以上についても、北米で研究開発を行っていれば、すべての研究開発費を合計し、その割合に応じて最大10%のクレジットが与えられる。そのほか、エンジンやトランスミッションを10万台生産している工場があれば、最大5%のクレジットが与えられるという。
「内容が複雑で、細かいところは私でもなかなか分からないところがある。まだ作業が残っているので、できる限りシンプルにして、カナダで自動車を生産している企業の負担を少なくしていきたい」とソーネル氏は話していた。