日本の鉄道にイノベーションを…工学院大学での特別講座

鉄道 テクノロジー

申し込み定員を大きく超え、教室は満席。
  • 申し込み定員を大きく超え、教室は満席。
  • 曽根悟 特任教授。工学博士で、東京大学の名誉教授でもある。
  • 講義風景。
日本の鉄道の可能性や課題について学ぶ公開講座『鉄道イノベーション~もっと身近で便利な鉄道に~ 』が16日、工学院大学の新宿キャンパスで開催された。会場には募集予定の200人を大きく超え、300人近くの聴講者が参集。大盛況となった。

工学院大学では、2009年から公開講座として「鉄道講座」を開催している。これは鉄道に関する知識を体系的に学ぶもので、今回はその「無料特別版」という位置づけ。講座の運営は公共交通コンサルティング会社のライトレールが担当。同社によれば「聴衆は大学生よりも、一般聴講者のほうが多かった」とのこと。鉄道関連業務に携わる人から一般の鉄道ファンまで、幅広い人が聴講したという。

講師は工学院大学の曽根悟 特任教授。講義は現状紹介に続いて「近未来の鉄道像」「誤った常識」「意外な正解」というタイトルが続いた。全体的には日本の鉄道事業を俯瞰して問題点を指摘するだけでなく、それを解決することで手に入れられる新たな可能性などにも言及するというもの。どのテーマにおいても一面的な結論は出さず、解決策や向かうべき方向を示唆して議論を促す内容だ。

一般社会でもなにかと注目を集める、新幹線の現状や輸出に関する話題では少々手厳しい論説を展開。一例が「整備新幹線は時代遅れ」というテーマ。「世界の高速鉄道では双単線(単線を2本並行させ、単線、複線の両方の使い方ができるもの)が普通。しかし新幹線は複線が基本のため、柔軟な建設や運行がしづらい」という内容だ。

この話題は「海外へ売り込むには相手の立場になってニーズを勘案し、アレンジを加える柔軟な姿勢が求められる」と続く。またこれとは別に、日立の英国進出などを例に「まず国内でよい手本を示し、それを海外の人に見て評価もらい、日本流を広めてもらう」という道筋の可能性も示された。

このほか「日本には在来特急以上新幹線未満の『中速鉄道』がまったくない。これは世界とは異なる、いびつな構図だ」といった話題や、「インバウンド対応のためにも、慣れない人でも負担を感じない、使いやすい購入システムや案内を」といったように、幅広い領域で提言が出された。

またローカル線では「安易に駅を廃止するのではなく、路線バスのように乗降客がいるときだけ停車すれば駅を減らさずとも効率的が図れる。海外では実際に採用されている例も多いのだから、これを可能にする信号システムを考えては?」と提案。自治体が補助金で地元の鉄道会社を支えている例も多いが「ただ赤字を補填するのではなく、イノベーションを進めるための、積極的な補助をするように変えていってほしい」と訴えた。

しかし、いっそう印象的だったのは、講演の最後に発せられた「日本の鉄道産業には、各分野の技術者はいるが、全体を見られる『鉄道技術者』というのがいない。これは残念なことだ」という言葉。総合的な視点を持つ技術者を育て、もっと経営に活用すべきという提言だ。

「技術的な知見のある人が全体を見られるようにすると、もっとうまくやれるはず」と曽根教授。事業全体を見渡し、各分野の優れたアイデア組み合わせる総合ディレクターが必要ということで、実はこの思いこそが特任教授として講義を続けている目的であり、伝えたいメッセージなのだという。

なおライトレールでは2016年度も、2年で完結する鉄道講座を工学院大学で開講し、この4月からスタートしている。「各専門分野だけでなく、システム全体として鉄道の価値を見直せるものにしたい。また一般の鉄道ファンにも参加してもらって知恵を借り、社会的に活かすこともできたらいいですね」とのことだ。
《古庄 速人》

編集部おすすめのニュース

特集