地方創生まちづくりのイベント「まちてん」の開催初日となった28日、エイ(木へんに世)出版社の高橋俊宏氏、地域活性化センターの畠田千鶴氏が「地域ブランディング」をテーマにトークセッションを行った。
はじめにDiscover Japan誌のプロデューサーである高橋氏が、日本全国の地域ブランディングと情報発信の最前線を紹介。「本誌創刊の頃から日本の魅力は地方にあると感じていた。私自身が地元の良さを再認識したことがきっかけ」と振り返りながら、広島県の尾道市でOnomichi U2が展開する、港の倉庫を改装したサイクリストホテルやショッピングモール、レストラン、バーなどの事例を挙げた。
まちづくり会社「ディスカバーリンクせとうち」が実施するプロジェクトでは古民家のリオンベーションや地域の特産品であるデニムのブランド化にも挑戦している。プロジェクトの狙いは場づくり、ものづくりなどによる「雇用創出」。街に若者や観光客が増えることで、地域の活性化に結び付ける。
京都の舞鶴市ではデザイナーが新しいロゴを作成。舞鶴といえば海と軍港、赤レンガ倉庫で有名な街だが、その歴史をモチーフにして発信する試みも始まった。また奈良市では、公共施設を賑わいの場所にリノベーション。高橋氏は公民館の1階にコミュニティスペースをつくった取り組みを紹介しながら「いわゆるサードプレイスとして、地元の方々に居心地よく集ってもらえる場所をつくった。インバウンドの利用者も多い」(高橋氏)と成果をアピール。また高橋氏は「若者を取り込むことが地域ブランディングの重要なポイント。現代の感覚でかっこいい、素敵と感じられる感覚を持って取り組むことが大事。いまそれが各地で生まれてきている。最先端が地方にもあることを伝えたい」と続けた。
畠田氏は「地域活性化センターは一般財団法人なので少し固い団体だが、地域振興の足場作りをサポートして、以後、クリエイティブな方々と結び付けるところまでの使命を帯びている組織。私が好きなラグビーに例えるなら、フォワード(自治体)から供給されたボールを、バックス(メディアや企業)にパスしてつなぐスクラムハーフやスタンドオフの立場」と自己紹介をしつつ、いま自治体サイドが取り組むブランディングの内容を解説した。
畠田氏は和食がユネスコの無形文化遺産に登録されて以後、農水省が中心になって日本食にまつわる食材のブランド化などが進められている現状を紹介。文化や観光、歴史、景観など地域ならではの魅力をプロモーションしていくという機運も全国で高まり始めているという。
地域の情報発信における現状の課題については、「アピール活動のスペシャリストとなる人材を育てること。地域資源の発掘とPRのコーディネートができる人材が不足している。外部の人々とのネットワーキングも大事」だと畠田氏は語る。地域活性化センターでは、この課題解決に向けた勉強会を実施しているという。
畠田氏が地域活性化の成功事例として挙げるのは、都内でも数多く見かけるようになった日本全国地方の物産を集めた「アンテナショップ」だ。単純に特産品を販売するだけでなく、観光案内やイベント実施、レストラン経営など複合的なビジネス展開が実を結んでいるという。
これに対して高橋氏は「確かにアンテナショップは人気だが、勝ち負けがはっきりしているのも事実。例えば“○○館”などネーミングが悪くて、流行らないところもある。ショップの名前や空間デザインにも力を入れることが必要」だと強調する。
「ただ特産品を販売するだけじゃない」アンテナショップの取り組みとして、畠田氏は「北海道 どさんこプラザ」が取り組む「ルーキーズステージ」を例に挙げる。同店では北海道で生まれたばかりの新商品を取り寄せ、東京のアンテナショップで売れ行きや来店者の声を集めることで、メーカーのものづくりにフィードバックする試みを実施した。「売れ行きの良かったものは店舗で取り扱うが、売れなかったものについても、今後の商品企画に活かせるようアドバイスを提供してきたことがキーポイント。地域の特産品を強くしていくことにつながっている」と畠田氏はコメントした。
トークセッションの最後に、高橋氏は今後の地域ブランディングの可能性と課題について総括しながら、こう語った。
「とにかく“質の高い活動”を意識していくことが大事。そのためにはクリエイティブの力をフルに活用すべき。自治体の方々が商品パッケージや空間デザインをスタイリッシュにすることは本職ではないので難しい。結果として完成度も中途半端なものになって、突出できないから目立たない。そこはクリエイティブなプロフェッショナルに任せてほしい。昨今設立された『地域ブランディング協会』に私も参加しながら、地域活性化のためのクリエイティブワークをお手伝いしたい」
畠田氏は「地域活性化センターでは、地元の方がどれだけ地域を愛しているかという気持ちが大事だと思っている。地域活性化のための関わり方、街を思って愛していく方法を学ぶ場をセンターでは用意している。興味のある方はぜひ参加してほしいと」呼びかけた。