端末で蔵書検索、貸出はISBNコードで管理…図書館が無人になる日

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本町公民館の図書室内部
  • 本町公民館の図書室内部
  • 本町公民館の図書室。出入口にゲートが設置される予定
  • 本町公民館
  • 秦野市役所庁舎

 神奈川県西部、丹沢山塊のふもとに位置する秦野市は、2015年2月から司書をおかない無人図書館の実証実験を行おうとしている。

 カフェやレンタルショップを併設した図書館が話題になり、いくつかの自治体が図書館運営を民間の指定事業者に委託する例が増えている。秦野市の取り組みは、その中で無人化という新しい改革の動きがでてきたともいえそうだ。無人図書館とはどんなものなのか、実験を行う背景や経緯について秦野市役所に取材した。取材に対応してくれたのは、秦野市 政策部 公共施設再配置推進室 主任主事 石原晋吾氏だ。

 まず「無人図書館」とはどのようなしくみになっているのだろうか。システムは開発段階ということもあり詳細は未定だが、施設の改修としては、出入り口に無人の自動ゲートを設置し、本の貸し出しや返却をする窓口に専用の無人端末が設置される。端末はスーパーなどにある自動レジのような機械になるそうで、来館者が自分で利用者カードと本のISBNコードを端末にかざすことで貸出の処理が行われる。借りたい本は自分で書架をさがすか、端末の検索機能などで書架・棚の位置を探すことになる。

 無人の貸し出し処理を実現するため、利用者カードと蔵書にはRFIDのタグも貼り付けられる。来館者は利用者カードによって無人ゲートの開閉を行える。貸し出し手続きをとっていない蔵書はゲートを通過できないようにして無断の持ち出しを防ぐ。

 以上が無人図書館の概要だ。貸し出しの細かい手順、返却方法はシステム開発と並行して詳細を決めていくという。返却後の本の整理や予約して取り寄せる本の処理など、無人化とはいうものの手続きを大幅に機械による自動化をするもので、完全に無人ですべてを運営するわけではない。

 また、今回の実証実験は秦野市図書館全体を無人化するわけではない。秦野市には図書館法で規定された公共図書館(蔵書数約50万冊)が1館存在する。しかし、県内5番目の広さを持つ秦野市で、広く図書館サービスを利用してもらうため、市内の公民館のうち11の施設に図書室を設けて、図書館の分館として蔵書の一部を置き、秦野市図書館と同じように貸し出しや返却ができるようにしている。公民館の図書室にない蔵書(移動可能と分類されているもの)は予約して取り寄せることもできる。実証実験で無人化(自動化)とするのは、このうち本町公民館の図書室だ。

 なお、本町公民館の図書室は無人化されるが、公民館には職員が常駐しているので、なにかがあれば人間が対応する。

 秦野市が公民館の図書室を無人化しようとした、そもそもの背景には、多くの自治体が人口減などの問題を抱え、公共施設・行政リソースの再配置やサービスの最適化が課題となっている現状がある。ピーク時に建設または増設した公民館やスポーツ施設などは、人口の減少局面においては維持や管理をどうするかといったこと、施設の統廃合は多くの自治体の課題となっている。

 石原氏によれば、秦野市は、公共施設の再配置について比較的早くから取り組んでいた自治体だといい、市民アンケートなどでも存続希望やサービス維持の希望が高かった図書館の運営についても改革を考えていたという。直接的な課題としては、図書館の分館機能を持たせている公民館への司書の配置やサービス維持の問題があった。

 この状況において、図書館振興財団の助成金事業に公共図書館のICT化推進に関するメニューがあることを知り、公民館の図書室を無人化する実証実験を申請したという。無人化プロジェクトは無事に審査に通り、現在、2015年2月から無人化実験を開始する予定で作業が進められている。システムの開発は図書館流通センター(TRC)が担当し、2年の実験期間中のシステム管理やメンテナンスも担当する。市役所側は、市民への告知や案内をしつつ、現状の利用者カードを無人図書館に設置される端末に対応するものへの切り替えを順次行っているという。

 実験は来年スタートのため、市民の反応や声を聞くことはできなかったが、秦野市としては、実験の成果や市民の反応をみながら次の展開を考えたいとしている。図書館は秦野駅から少し遠いという難点があるそうだが、例えば、駅前に貸出に特化した無人分館を設置できないかといった事例だ。なお、秦野市ではすでにコンビニエンスストアで住民票の発行ができるなど、民間企業の活用実績がある。そこで、佐賀県武雄市や県内の海老名市他の事例のようにカフェやレンタルショップを指定管理事業者とする計画について聞いてみたところ、秦野市の図書館は立地条件などから企業側が集客と採算の点で難しいとの判断もあり、今のところ考えていないそうだ。

 カフェやレンタルショップの併設は集客や図書館の活性化という面で一定の効果を見込めるが、長期的にみると継続性に難点があるという指摘がある。珍しさからの集客は時期を過ぎると飽きられてしまう。そのときに民間企業が追加投資やテコ入れをしてくれる保証はない。図書館には市民サービスの他に資料等のアーカイブという機能がある。とくに地方の図書館の場合、地域ならではの貴重な歴史資料などを保存していかなければならないため、集客や民間サービスだけで語るわけにはいかない。

 そのため、秦野市のように、まず現状の図書館の機能を見直し、可能なところから合理化やサービス維持の施策を考えるアプローチは長期的な視点に発った取り組みといえるだろう。

秦野市、図書館無人化に向けて実証実験

《中尾真二@RBB TODAY》

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