スペースX、有人宇宙船『ドラゴン V2』試作機を公開

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公開された『ドラゴン V2』試作機の外見
  • 公開された『ドラゴン V2』試作機の外見
  • ドラゴン V2と「スーパードラコ」エンジン(手前右)
  • 7人が搭乗できるドラゴン V2の船内

2014年5月29日、スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(Space X)社は、2017年から国際宇宙ステーション(ISS)へ宇宙飛行士を乗せた輸送を計画している有人宇宙船の試作機『Dragon V2(ドラゴン V2)』を公開した。

米カリフォルニア州ホーソンのスペース X社施設内で、電気自動車メーカー・テスラの代表としても知られるイーロン・マスクCEOが行ったプレゼンテーションでは、ドラゴンV2試作機の実物と、運用の様子を示す動画が公開された。

ドラゴン V2は、現在ISSへ物資の輸送を行っている無人補給船「ドラゴン V1」を発展させたもので、形状はドラゴンと同様のカプセル型をしている。7人までの乗員が搭乗でき、逆噴射エンジンと着陸脚により、「ヘリコプターのように精密に」地上の任意の場所にソフトランディングができる。着陸時の機体の損傷が少ないため、推進剤を再充填すれば短時間で再び打ち上げが可能になる再使用型だという。

動画では、ドラゴン V2有人宇宙船はISSのハーモニーノード2先端にある与圧結合アダプターにドッキングする。無人のドラゴン補給船は、ロボットアームを使って船体を把持、結合する形でドッキングするが、ドラゴン V2はロボットアームを使用しない。この点は最大の違いだとイーロン・マスクCEOは説明している。

ISSから離脱して着陸する際は、ドラゴン V1では「宇宙船の開発は初めての経験だったため、従来の着陸方法を採用した」と説明され、パラシュートを使って減速し、海上に着水する方式を採用した。ドラゴン V2では、船体に取り付けられた8機の「スーパードラコ」エンジンを使って逆噴射により減速し、着陸脚を展開して垂直に降りる。

要となるスーパードラコエンジンは、ドラゴンV1に採用された「ドラコ」エンジンの発展型で、1万6000重量ポンド(約71キロニュートン)の推力を持ち、チタン製推進剤タンクと組み合わせられる。1台のエンジンは2基1組で構成されており、耐熱・耐食性の高いインコネル合金を3Dプリントの技術で成形したものだという。2基のエンジンはシェル状の防護壁で隔てられており、1基が停止した場合はもう1基が推力を増して不足分を補う。動画では描かれていないが、着陸に支障をきたすほどエンジンの不具合が大きい場合は、従来通りのパラシュート着陸システムも使用するとのことだ。

ドラゴン V2底面のヒートシールドは、同社の技術として3世代目となるもので、フェノール樹脂をカーボン素材を組み合わせている。再突入時の熱で揮発して温度を下げるアブレーション素材のひとつだが、多く揮発せずに残った状態で着陸するため、短期間での再使用が可能になるという。

発表時には、イーロン・マスクCEO自らドラゴン V2の船内に入り、パイロットシートに着席して解説するデモンストレーションを行った。上段4席、下段3席のシートの上段がパイロットシートとなっており、4面のスクリーンを備えたオーバーヘッドディスプレイ兼操縦パネルを降ろして操縦を行う。正常時はスクリーンにタッチして操作可能なようだが、緊急時にはディスプレイ中央のボタン、操縦桿でマニュアル操作が可能になるという。

ドラゴン有人宇宙船は、2014年後半に射点での緊急打ち上げ中止試験などを予定している。2015年末までに無人のテスト機を軌道上へ打ち上げ、2016年に有人テスト飛行を行い、2017年からの運用を目指している。米CBSニュースの報道では、乗員1人あたりの搭乗費用は2000万ドル以下とのことだ。現在、アメリカは国際宇宙ステーションへの宇宙飛行士の輸送に1人あたり、ロシアのソユーズ宇宙船の搭乗費として7000万ドルを支払っているとされ、実現すれば大幅なコスト削減になる。

NASAの商業有人輸送計画(Commercial Crew Program)に向け、スペース X社のほかにボーイングのカプセル型有人宇宙船「CST-100」、シエラネヴァダ社の7人乗りリフティングボディ型宇宙船「Dreamchaser」の開発が進められている。NASAは、3社の宇宙船から、2017年の有人飛行に向けた主力機を絞り込む選定が今年の夏に予定しているとされる。エンジン燃焼試験や船内モックアップ映像といった情報を公開しているボーイング、シエラネヴァダに対し、実機を公開したスペース Xには大きな注目が集まった。

《秋山 文野》

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