赤外線天文衛星『あかり』の成果報告書を発表、世界の赤外線天文マップを塗り替えた実績

宇宙 科学
宇宙でのあかり(ASTRO-F)イメージ図
  • 宇宙でのあかり(ASTRO-F)イメージ図
  • 打ち上げ前のあかり
  • あかり観測装置の一つ、近・中間赤外線カメラによる波長9μmの全天画像
  • 波長9μmの全天画像に、星座と星形成が活発な暗黒星雲がある領域などを示した図

7月12日、文部科学省宇宙開発利用部会は、JAXA宇宙科学研究所が2006年2月に打ち上げ、2011年11月に運用を終了した赤外線天文衛星『あかり(ASTRO-F)』について、プロジェクト終了に伴う報告書を公表した。

報告書は全79ページからなるもので、科学衛星プロジェクトの終了にあたって、宇宙科学研究所(ISAS)宇宙理学委員会による科学的成果を評価。続いてISAS、JAXA理事会の審査を経て了承されたものだ。科学衛星プロジェクトが上げた科学的成果や社会的効果、ミッションの到達度、今後の発展について報告している。

科学的成果として、1980年代のIRAS衛星の25万個をはるかに越える、130万個の天体を網羅した銀河のガイドマップ「あかり」赤外線天体カタログを作成。小惑星5120個を含む正解最大の小惑星カタログ、約66万天体を含む大マゼラン雲カタログなどを公表し、多くの天文学研究の基礎となっている。2010年のカタログ公開後、2011年から利用した論文数が急激に増えているという。2013年3月までにあかりのデータを利用した査読付き論文は473編としている。

技術面では、冷却用液体ヘリウムを使った反射望遠鏡で観測期間1年4カ月のフルサクセスを達成し、軌道上で550日間のヘリウム冷却実績を達成した。液体ヘリウム冷却後も観測を継続しエクストラサクセスの実績も上げている。

こうした成果から、2013年より5カ年計画であかりデータのアーカイブと処理を行った「あかりデータアーカイブ・プロダクト」を作成し、公開していく方針だ。また、こうした成果が赤外線天文学での日本の地位向上につながり、次期赤外線天文衛星『SPICA』へ欧州、台湾、韓国が参加を表明しているとのことだ。

あかり(ASTRO-F)は、2006年2月にM-Vロケット8号機で打ち上げられた日本初の赤外線天文衛星。有効口径68.5センチの反射望遠鏡を備え、約700キロメートルの太陽同期極軌道から赤外線による宇宙全体の観測、"全天サーベイ観測"を行った。宇宙に漂う塵やガス、新発見の天体を含め130万の天体をリストアップした包括的な赤外線天体カタログを作製した。
衛星の開発にあたって、NECが中心となって衛星システムを取りまとめている。冷却系担当として筑波大、住友重機械工業、明星電気。望遠鏡・IRC・FISの観測装置担当としてニコン、住友重機械工業、アドマップ、三鷹光器、東京大、ジェネシア、東芝生産技術センター、日本分光、名古屋大、情報通信研究機構、国立天文台など多くの研究機関、企業が参加している。特に住友重機械工業が開発した新型冷凍機は低消費電力で性能を発揮し、日本の宇宙用冷凍機は現在では世界トップの技術となったという。

プロジェクト費用は、衛星の開発から打ち上げ、1年分の初期運用まで総額213.7億円。米スピッツァー宇宙望遠鏡が720万ドル、ワイズ宇宙望遠鏡が320万ドルであるのに対し、要素を絞り込んで開発費を抑え、効率的な資金管理ができたとの評価だ。三菱総研見積もりによる国内産業への二次的な波及効果は130億円で、波及の効率では他の科学ミッションと変わらないとのことだ。

《秋山 文野》

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