【中田徹の沸騰アジア】注目のベトナム自動車産業、四輪メーカーは逆風の中

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(2013年は予想値)
  • (2013年は予想値)
  • ベトナム ハノイ(参考画像)

筆者は3月にベトナムの首都・ハノイを訪れた。街の中心部であるホアンキエム湖の周囲を歩いていると、路上を走る二輪車の多さに驚かされる。

ポルシェ、メルセデス、BMW、ベントレー、レクサスなどの高級車も珍しくない。街は活気に溢れている、と感じる。しかし、ベトナム経済は近年、貿易赤字、通貨切り下げ、インフレ、金融引き締めに悩まされてきた。そして自動車市場、特に四輪車販売も伸び悩んでいる。8000万人を超える人口を背景に、大きな成長力を内包すると言われるが、自動車を巡っては期待と不透明感が入り混じる。

経済成長の足かせは貿易赤字

ベトナムの主力産業と言えば、少なくとも数年前まではコメやコーヒーなどの農業、縫製品などの軽工業だった。このため付加価値は低く、外貨を稼げる輸出製品に乏しかった。2008年に1人当たりGDPが初めて1000ドルを超える中、消費拡大に伴って輸入が増加したが、同じ時期に起こったリーマンショック(外需低迷)により輸出産業は打撃を受け、貿易赤字が膨らんだ。貿易赤字はドン切り下げとインフレを引き起こし、2011年の金融引き締めにつながった。2007年以前には8%を超える経済成長を続けていたが、2008年以降は7%を下回っており、昨年は5.0%(速報値)に落ち込んだ。経済成長の鈍化は当然ながら自動車市場の足かせにもなっている。

貿易収支の問題が根底に流れるベトナム経済だが、状況は改善に向かっている。その理由は輸出企業の増加であり、その代表格が韓国のサムスン電子だ。ベトナムを携帯電話の生産・輸出拠点と位置づけるサムスン電子は今年3月、ハノイ市から北に100kmほど離れた場所で新工場(第2工場)の建設に着手した。既にベトナムの最大の輸出企業がサムスン電子と言われるが、2015年に第2工場がフル稼働となれば、サムスン電子が世界で販売しているスマートフォン(ギャラクシー)の半数以上がベトナム製となる。今後もこうした低労働コストを目当てに輸出型メーカーの進出が増えると予測され、貿易赤字の解消、所得上昇が見込まれる。

低迷する四輪車産業、二輪車メーカーは輸出強化

四輪車市場は伸び悩んでいる。モータリゼーションが始まると言われる経済水準に達していないこともあるが、自動車関連税が極めて高いこと、先述の景気悪化が背景にある。四輪販売は2009年に過去最高の16.1万台となったが、その後縮小を続けており、昨年には10万台を割った。需要低迷は四輪車メーカーに難しい選択を迫っている。将来的に1億人に拡大すると予測される一大マーケットだが、ASEAN域内からの輸入車(タイ製など)に対する関税が2018年に撤廃されるため、車両の現地組立を行う経済合理性がほぼなくなる。工場撤退するメーカーもあると考えられ、自動車産業の発展にとって大きなマイナスとなる。

一方、二輪車は庶民の足として普及している。2010年までに市場規模は300万台に達し、2011年には350万台を超えた。景気悪化を受けて昨年の販売台数は縮小したが、今後も経済発展が続くと見込まれる中で底堅い市場拡大が期待される。また、ヤマハとホンダはASEANで2番目に大きい内需を土台として築いた現地工場を輸出拠点として活用する考えで、今年からASEAN市場や日本への完成車輸出を本格的に行う。

部品メーカーの場合、「チャイナ+1」「タイ+4」といった分業・補完体制を目指す動きが広がる中、増産投資や新規進出を進める動きが多く見られる。ベトナムの最低賃金は今年1月に165万~235万ドン(79~113ドル、地域によって異なる)に引き上げられたが、タイや中国などと比較すると労働コストは依然として低く、有望な投資先として注目度は高まっている。

ある四輪車ユーザーの意見

ハノイの高級住宅街。筆者の友人(日本人)がシェフを勤めるお洒落なレストラン&バーがある。その店のベトナム人経営者やその店の常連で富裕層に属する若者たちと地下のバーで夜遅くまで話した。「欧州ブランドの高級車を複数所有している」「(四輪車には)買った当初は乗っていたが、移動手段としては不便だと感じている」「渋滞がひどいハノイでは、四輪車を運転する喜びを感じられない」 1杯500円(工場労働者の最低賃金1日分に相当)もするハノイビールを片手に、この国の四輪車産業が進む道はやはり険しいのかもしれない、と考えた。

《中田徹》

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