【中田徹の沸騰アジア】ディーゼル車問題に揺れるインド、日系企業の課題とは

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フォードブース(デリーモーターショー12)
  • フォードブース(デリーモーターショー12)
  • マルチスズキ・A-スター カブリオレ(デリーモーターショー12)
  • タタモーターズ、プレスカンファレンスのようす(デリーモーターショー12)
  • タタモーターズ、プレスカンファレンスのようす(デリーモーターショー12)
  • タタモーターズ プレスカンファレンスのようす(デリーモーターショー12)
  • マルチスズキ・エルティガ(デリーモーターショー12)
  • トヨタ・エティオス リーバ(デリーモーターショー12)
  • ヒュンダイ・HEXAスペース(デリーモーターショー12)

インド自動車産業が、ディーゼル車をめぐって揺れている。

2012-13年度予算案においてインド財務省がディーゼル車に対する増税を検討している、と伝わった。ディーゼル車販売好調のなかで、突如涌いて出た増税論。結局2012年3月発表の新年度予算(2012年4月~2013年3月)では、ディーゼル車だけを狙った増税は実施されなかったが、燃料政策、自動車政策に対する明確な中長期ロードマップが無いことが浮き彫りとなり、自動車各社は困惑の表情だ。

一方、マーケットではディーゼル車の販売が伸びている。インフレ抑制などの目的で燃料価格を統制してきたインド政府だが、2010年6月にガソリン小売価格を自由化。これにより価格統制が続くディーゼル燃料(軽油)との価格差が拡大しており、ランニングコストに敏感なインドの自動車ユーザーがディーゼル車を選ぶ傾向が一気に強まっている。こうしたなか、インド乗用車市場におけるディーゼル車比率は50%程度にまで上昇すると予測されており、主要各社はディーゼルエンジンやディーゼル用部品の増産を加速している。

ディーゼル価格統制とディーゼル車増税論

2010年6月、インド政府がガソリンの価格統制を廃止し、原則自由化した。この結果、ガソリン価格は断続的に引き上げられ、2010年半ばの50ルピー台前半(1リットル当たり)から2011年には60ルピー台半ばに上昇し、さらに2012年6月末時点では70ルピーを超える水準で推移している。一方、ディーゼル燃料は2010年半ば以降、40ルピー前後で推移しており、2012年6月末時点では41ルピー程度だ。

ガソリンとディーゼルの燃料価格の差は50%以上となっており、このことがディーゼル車人気につながっている。2011年度(2012年3月期)にはガソリン車の販売台数が前年度に比べて14%減ったが、ディーゼル車は37%増えた。市場全体に占めるディーゼル車比率も40%程度に上昇している。ディーゼル車を製品ラインに持っているか否かがシェアを大きく左右する状況だ。

こうしたなかで、インド財務省がディーゼルエンジン搭載車に対する物品税増税を検討していることが伝わった。インド政府が毎年拠出しているディーゼル燃料の価格統制のための費用(予算)は約6700億ルピーとされる一方で、車両価格の高いディーゼル車(乗用車/SUVなど)のユーザーは主に富裕層である、と言われ、増税の対象として目を付けられた。しかし、欧州債務危機の影響などでインド経済にも減速感が広がるなかで、販売好調なディーゼル車に対する増税は自動車産業に大きな悪影響を及ぼしかねない、といった声が高まり、2012年3月16日に発表された新年度予算案ではディーゼル車増税は見送られた。

一方でインド政府が自動車産業に対して明確な政策方針を持っていないことが露呈したことに変わりなく、設備投資を計画する現地自動車メーカーや部品企業の不安感をぬぐうことができていないのも事実だ。

自動車メーカーは投資加速

ディーゼル車をめぐって右往左往する状況が続いているが、自動車メーカーは増産の構えだ。

インド乗用車最大手マルチ・スズキは、2012年1月からフィアットとタタ・モーターズの現地合弁会社から年間10万基のディーゼルエンジンを調達開始した。2011年8月に投入した新型『スイフト』のディーゼル車の納車待ちは6か月程度(2012年前半時点)となるなど、ディーゼル車の供給能力不足が顕著となっており、フィアットから調達し納車待ちの解消を急ぐ考えだ。

マルチ・スズキは、自社工場でのディーゼルエンジン増産にも乗り出す考えで、2012年3月にはデリー近郊の主力拠点(グルガオン工場)に170億ルピーを投資して年間30万基分の生産能力を新たに整備すると発表。また、2012年6月には年産30万基の生産能力を持つスズキ・パワートレイン・インディアを完全子会社化することを決めている。これらによりマルチ・スズキのディーゼルエンジン生産は2014年には年間60万~70万基に倍増する計画だ(ガソリンエンジンの生産能力は120万基)。

生産能力と併行して新機種開発も進んでいる。現地報道によると、スズキは800ccクラスの新型ディーゼルエンジンをインド市場向けに開発しているとされ、2015年頃に車両への搭載を開始するとみられる。

現地系では、タタ・モーターズがフィアットとの合弁工場からディーゼルエンジンを調達し、小型乗用車に搭載するほか、ユーティリティ車(UV)用には自社製ディーゼルエンジンを搭載する。ユーティリティ車最大手のマヒンドラ&マヒンドラは、海外のエンジニアリング会社などと共同開発したディーゼルエンジンを主力車種に搭載する。また、外資系では、ゼネラル・モーターズ(GM)とフォードがディーゼルエンジンを現地生産しているほか、日産/ルノーも現地化する予定。一方でトヨタ、ホンダ、VWなどは輸入に依存している。

乗用車2位の現代自動車(ヒュンダイ)は、インド南部にガソリンエンジン工場を展開するが、ディーゼルエンジンについては当面は韓国からの輸入を続ける考えだ。

2010年に40億ルピーのディーゼルエンジン工場を建設する計画を示したが、2011年までに計画を一旦中止した。そして2012-13年度予算案の結果を受けてディーゼルエンジン工場計画を復活させる方向に傾いたが、2012年7月までに再度計画を中止した。政府の燃料政策が不透明であること、内需に減速感がみられることを理由に挙げている。

世界最大の自動車部品メーカー、ボッシュもインドのディーゼル車比率が今後数年以内に50%に上昇すると予測しており、このため年間100億ルピー超(ディーゼル以外を含む)の投資を続ける考え。2006年からインジェクターや高圧ポンプの生産を開始し一早く現地化したことで、ボッシュはディーゼルシステムでインドシェア85%程度を持つとされるが、設備投資や現地ニーズに合った廉価なシステムの開発などをさらに強化する。

日系企業にとっての課題とは

ディーゼル車がインド市場における優勝劣敗を分ける重要なファクターとなった今、日系企業にとっては今後プレゼンスを維持・拡大できるか、瀬戸際に立たされている。

乗用車市場をみると、2011年時点でマルチ・スズキ、トヨタ、日産、ホンダの合計で50%弱の市場シェアを持つ一方、欧州系のシェアは5%にも満たない。しかし、マルチ・スズキのディーゼルエンジンはフィアットから技術供与を受けており、エンジン技術をベースに考えると日系のシェアは相当落ちる。また、タタ・モーターズの乗用車用ディーゼルエンジンもフィアットから供給されている。インド市場において、フィアットが開発したディーゼルエンジンの存在感は極めて大きい。

開発能力に乏しいインド現地メーカーについて、欧州のエンジニアリング会社などと車両やエンジンを共同開発するケースが多くみられる。また、ボッシュのようにインドに深く根付いた欧州サプライヤー、欧州企業から技術供与を受けるインドメーカーの数は少なくない。自動車販売シェアに比べると、(ディーゼルエンジンに限ったことではなく)開発・設計や技術面での日系のプレゼンスは決して高くない、と言わざるを得ない。インド市場の成長の恩恵をしっかりと享受するためにも、日系自動車メーカーと部品サプライヤーには開発・技術面でのシェア拡大も問われている。

《中田徹》

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