【池原照雄の単眼複眼】“真っさら”が革新を生む…トヨタ18年ぶりの新工場

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ハンガー式を廃し、ベルトコンベア式にすることで5割の投資削減を図った
  • ハンガー式を廃し、ベルトコンベア式にすることで5割の投資削減を図った
  • セントラル自動車の葛原徹社長(左)とトヨタ自動車の新美篤志副社長(右)
  • 新品のロボットが稼働する車体ライン
  • ベルタ(海外名:ヤリスセダン)
  • カローラアクシオ

「コンパクトで柔軟」を徹底追求

床面には古い工場独特の油染みたテカりはなく、各種のロボットもピカピカだ。新しい工場の見学といえば海外が多かったので、一瞬どこかの新興国に居るような錯覚にも陥った。トヨタグループのセントラル自動車が1月から稼動させた宮城工場(宮城県大衡村)は、同グループの新設工場としては1993年以来となる。

自動車各社は、既存工場にも常に新たな生産技術や設備を導入し、進化させている。だが、この宮城工場のように建屋を含む丸ごとの新設だからこそ可能になる新技術や新工法もある。真っさらの工場を見て、そんな印象を強くした。

同工場は、老朽化し拡張余地のない相模原工場の代替拠点として新設された。年産能力は12万台で、現在生産中の『ヤリスセダン』(日本名『ベルタ』)に加え、4月からは『カローラアクシオ』を生産開始し、移転を完了する。

宮城工場の建設に当たり、セントラルは「コンパクトで高効率、かつ生産変動などに柔軟に対応できる工場」(葛原徹社長)をコンセプトとした。「コンパクト」という点では車体、塗装、組立の各工程でラインの短縮化や設備の抑制を図っている。

◆エンジンと足回り工程は「横流し」

例えば組立工程では、ハンガーで吊るして車を流す工程を全廃し、コンベア上の自立式の台に車を載せて流すようにした。ハンガー方式では、それを吊るすレールなど大掛かりな構造物が必要だったのが不要になり、この部分だけで5割の投資削減ができたという。

組立工程ではさらに、車をライン上で横置きにして流す方式も採用した。この工場での革新の核心的部分だ。ただし、組立ラインすべてではなく、エンジンおよびアクスル(車軸)やサスペンションといった足回り部品を取り付ける工程にのみ採用している。

これらの部品だと、車の前後で同時に作業が進められるからだ。逆に、シートなど車のサイドから挿入する大物内装部品には向かない。この「横流し」ラインはU字型で、全長は40メートル程度だった。工程とライン長の短縮を同時に実現しており、ラインについてはこの部分で35%ほど短くなった。

◆日本でのモノづくりを守るには‥‥

こうした一連のコンパクト化により、工場全体の建屋面積は従来比で15%、建屋容積は30%削減された。生産設備を含む総投資額では、同等の能力をもつ従来工場の6割程度に抑制している。

トヨタの生産部門を担当する新美篤志副社長は、工数のスリム化による原価低減に加え、「設備投資抑制がもたらす固定費の削減効果は大きく、今後もこうした取り組みを強化したい」と話す。宮城工場はトヨタグループの工場づくりの新たなスタンダードであり、「横流し」方式などは国内外の拠点へと、横展開が始まっている。

この宮城工場のように国内で乗用車工場がサラ地に建設される計画は、現時点では13年に稼動するホンダの寄居工場(埼玉県寄居町)しかない。為替の変動リスクや国内需要の先行きを考えると、今後、国内工場の閉鎖はあっても新規立地は期待できない情勢だ。

一方で自動車各社は、一様に国内工場を「モノづくりの革新」を生み出す拠点と位置づけている。新工場の立地が途絶えるなか、どう革新を生み出していくか―。日本で開発した新技術・新工法を、まずは海外の新工場でトライアルするといった柔軟な対応も従来に増して必要となるのだろう。

《池原照雄》

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