ギスギスした雰囲気が漂っている
今回は取材する側の内輪の話で恐縮だが、自動車メーカーのメディア対応について触れたい。最近は記者会見などの取材セッティングで、異なるメーカーの日時が重なった場合、それを回避するような取り組みがほとんど行われていないようで憂慮している。
一昨年来の業績の急激な悪化により、他社のことなんか考えている余裕はないといった状況で、ギスギス感が漂っている。2つの会見が重複すると情報を発信する企業側も、取材する側にもいいことはない。かつては、仮に同じ時間帯になる場合、当然、後からセットする方が配慮していたのだが、いつの間にか“仁義無き”取材セッティングになってしまっている。
3月30日にも懸念している案件がある。日産自動車が電気自動車に関する記者会見を予定しているこの日、トヨタ自動車がリコール問題を機に立ち上げる「グローバル品質特別委員会」の第1回会合が開かれる。
23日現在、筆者にトヨタからの案内は来ていないが、今後の品質改善への対応策の柱となるだけに、会見等何らかのブリーフィングがあるのではと見ている。その際、日産の会見とは重複しないだろうかという懸念だ。
◆2回連続でバッティング
というのも、両社は最近2度ほどバッティングしている。2009年11月と2010年2月、いずれも日産が志賀俊之COOによる決算発表を横浜市の本社で行ったのだが、11月にはトヨタがF1からの撤退、2月はリコール問題について豊田章男社長が緊急の会見を東京本社で行った。
どちらも、1人の人間が両方の会見に出るのは物理的に無理な設定だった。トヨタの会見は、いずれも緊急でセットされたものであり、いたし方ないところはあるが、結果的には先に決まっていた日産の会見への配慮はなかったということになる。
かつては、こうした事態になると企業間で調整し、場合によっては会見会場も同じところ、あるいは近隣にセットするよう取材する側にも配慮したものだった。会見時間や場所を談合したからといって、競争政策上の問題はない。
◆消費者や投資家への配慮にもなる
1990年代半ばごろまでは、自動車産業の記者クラブに会見を申し込むのが基本だったので、クラブ側も調整に一役買っていた。しかし、会見は記者クラブ向けでなくオープンにされたこともあって、クラブ側が助言することはあっても、調整する機能はなくなった。
バッティングを避けるには、後からセットする方が相手を慮るのが当然だ。それが、取材する側への気配りにもなるし、その先にいる消費者や投資家への配慮ともなる。複数の自動車担当記者を抱える日本の大手メディアは重複した場合も対処できるが、外国メディアはそうもいかないのではないか。
単独で動く証券アナリストやフリーランスは、確実にどちらかの現地取材を断念せざるを得ない。産業界のなかでも、取材する側への配慮が特段行き届いていた自動車業界の良き伝統が崩れつつある。