異例の実況検分、事故から9年目に実施

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盛岡地裁は10日、1994年3月に岩手県盛岡市内で発生し、遺族が岩手県(岩手県警)を相手に損害賠償請求訴訟を起こしている交通死亡事故について、担当裁判官立会いの下で事故発生状況を調べる実況見分を実施したことを明らかにした。民事訴訟での実況見分が行われるのは異例だが、事故から9年目にして行われたという検分もこれまでには例がない。

問題の事故は1994年3月31日の午前0時20分ごろ、岩手県盛岡市上堂1丁目付近にある国道4号線と県道の交差点で発生している。事故発生の数分前、岩手県警・盛岡西署の地域課員がパトカーでパトロール中、ヘッドライトが壊れたまま走っている1台のクルマを県道で発見した。

パトカーはこのクルマに対して停止を求めたが、容疑車両はそのままスピードを上げて逃走を開始。パトカーもスピードを上げてこれに追従した。容疑車両は数分後に上堂1丁目付近の交差点に到達。右折レーンで信号待ちをしていた22歳男性運転のクルマに激突した。

激突されたクルマは交差点中央付近まで押し出されて炎上。パトカーは炎上するクルマの横をすり抜け、反対側で身動きが取れなくなっていた容疑車両の真横まで走り、運転していた18歳の少年の身柄を確保した。激突されたクルマには運転していた男性のほか、男性の婚約者の女性も乗っていたが、クルマから脱出することができず、そのまま焼死した。

追跡を行った警察官は「容疑車両が衝突したクルマは無人だと思った」と証言。救出よりも容疑者確保を優先したことについては「逃走の恐れがあり、何よりも優先しなくてはいけなかった」と主張。救助を行おうとは考えもしなかったことが後の供述から明らかになった。

また、事故の発生が2人の家族に知らされたのは事故から数時間後。遺体の気管には煤が付着しており、呼吸していたことが証明された。つまりは事故発生直後に救助していれば焼死することなく、ケガを負うのみで助かった可能性が高いということが明らかになった。

遺族は「警察が強引な追跡を行わなければ事故は発生しなかったし、事故後の警官の行動には大きな問題があった」として、1997年に岩手県(県警)を相手に1億3000万円の損害賠償を求める民事訴訟を提訴していた。

被告となった岩手県は「警官の追跡は適切な職務遂行であり、何の問題もなかった」と繰り返し、さらには右折レーンに止まっていたはずの被害車両を「無人の車両だと思っていた」と主張するなど、警察側の証言に現実味がほとんど無いまま裁判は進行してきた。

今回の現場検証は原告側が裁判所に強く求めていたもの。元々この裁判で証拠採用されている実況見分調書は事故当時に警察が作成したもので、車両の位置関係などに疑問があり、証拠能力に欠けると原告は主張。「裁判所が主導となり、裁判官立会いの元で再度の検分を行なう必要がある」とも再三に渡って繰り返し、ようやく実現にこぎつけた。

10日に行われた実況見分は事故発生時と同じ時間帯に行なう必要があるとの判断から、交通量が少なくなる午前2時から付近の交通を完全にシャットアウトした状態で開始。現場検証はこの案件を担当する盛岡地裁の裁判官が立会い、同地裁職員が中心となって約2時間掛けて行われた。

現場には事故に関係した車両と同型のクルマが持ち込まれ、原告の主張や被告の主張に合わせ、クルマの位置関係を変えながら記録を取るだけではなく、ビデオ撮影なども同時に行われ、図面だけではなく実際の視点に近い形での記録も残された。

盛岡地裁によると、民事訴訟で裁判所が中心となった実況見分を行うのは極めて異例で、事故発生から9年目に行われる検分というのもほとんど例が無いという。この件について岩手県警は「係争中の事件であること」を理由にコメントを断っている。

《石田真一》

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