最新の法医学が医者の嘘を見破る? ---警察官の放置責任を問う裁判

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衝突事故を起こして内臓などを負傷していたにも関わらず、発見した警察官が「酔って寝ているだけ」と判断、その後も放置したために死亡したとして、事故を起こした男性の遺族が神奈川県警の警察官などを訴えていた裁判の口頭弁論が12日、横浜地裁で行われた。遺族側は死亡した男性の司法解剖を行ったとする鑑定医が、実は解剖を行っていなかったとする陳述書をまとめ、新たに証拠書類として提出している。

この事故は1997年7月19日未明、横浜市泉区内の路上で発生した。大型のRVを運転していた当時54歳の男性が運転を誤り、道路脇の支柱に激突し、そのまま気を失った。付近の住民から「大きな衝突音がした。事故らしい」との通報を受け、現場に駆けつけた神奈川県警・保土ヶ谷警察署の警官3人は、このクルマのフロントガラスが破損していることを認知しながらも「酔って寝ているだけ」と判断。クルマを他車の通行の支障にならない路肩に移動し、男性をそのまま車内に置いたまま現場を離れた。この男性は数時間後、住民の119番通報によって病院に収容されたが、10時間後に死亡した。

事故を起こした可能性があることから、監察医が司法解剖を行ったとしていたが、遺体にそれを示すような痕跡がなく、死因も事故とは直接の関係がないとされる「心筋こうそく」と判断された。遺族は当初から「警察官がもっと早い段階で事故発生を認識し、病院に収容していれば死に至らなかった」と主張したが、この監察医の司法解剖記録によって「事故現場への放置と男性の死亡に直接の因果関係がない」とされたため、警察は責任を回避。この決定に遺族は猛反発し、最終的に警官と監察医を被告とする民事裁判を提起することとなった。

12日に行われた口頭弁論では、遺族(原告)側から、監察医が司法解剖を行っていなかったとする陳述書が新たに提出されている。これは司法解剖で摘出されたとする臓器片のDNA鑑定を行った日本大学の教授(法医学)によるもの。

今回提出された陳述書で、この大学教授は監察医が司法解剖の際に摘出したとされる臓器片(約100部位)のDNA鑑定を行ってきたが、「DNAを死亡した男性の実子のものと比較した結果、全く類似性が見られないことから、証拠として提出された臓器片が死亡した男性のものとは言えない」とする報告を行っている。つまり、監察医が解剖したという主張の元になる最大の証拠は、最新の法医学技術によって否定されてしまったということだ。

遺族側はこれまでにも「監察医は解剖を行っていない」という主張を繰り返しており、2000年11月の口頭弁論では葬儀会社の社員の陳述書が提出され、証拠採用されている。この陳述書で社員は「遺体の脳せき髄液を採取し、それを見て心筋こうそくと決めただけ。時間は5分、最大でも10分は掛かっていない」と供述。しかし、監察医側はこれを「信憑性に欠けるので不同意」としていた。

また、遺族は今回の証拠提出に合わせ、検察が男性を放置した責任を問わず、警察官を不起訴にしたことは不当だとして、同日付けで横浜検察審査会に不起訴不当の申し立てを行った。

《石田真一》

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