5Gの高度化と6Gによる次世代モビリティへのインパクト… NTTドコモ チーフ テクノロジー アーキテクト 中村武宏氏[インタビュー]

5Gの高度化と6Gによる次世代モビリティへのインパクト… NTTドコモ チーフ テクノロジー アーキテクト 中村武宏氏[インタビュー]
  • 5Gの高度化と6Gによる次世代モビリティへのインパクト… NTTドコモ チーフ テクノロジー アーキテクト 中村武宏氏[インタビュー]

2020年に5Gが商用導入されて以来、すでに5Gの高度化と6Gに関する標準化や研究プロジェクトが世界的に進められている。コネクテッドカーに対する取り組みや、モビリティと通信との連携に関する将来ビジョンについて、NTTドコモ チーフ テクノロジー アーキテクトの中村武宏氏に聞いた。

中村氏は7月28日に開催予定の無料のオンラインシンポジウム【日本発!モビリティ変革事例】産官学・モビリティコンソーシアム会議に登壇してこのテーマで講演予定だ。

5Gの高度化とモビリティ

---:セミナーでは5Gの高度化と6Gについてご紹介いただけるとのことですが、この5Gの高度化というのは具体的にどのようなものでしょうか?

中村:5Gは世界共通の標準仕様ですが、それを作っているのは3GPPという団体です。5Gの標準仕様を作ったのが2018年、その後およそ1年半周期で新たな機能が付け加えられていて、これから世に出てきます。クルマ関係で言うと、2016年にLTE技術をベースにセルラーV2Xの標準仕様が開発されていましたが、その5G版が2020年に仕様開発されており、将来的に実用化されることが期待されています。

---:なるほど。これにはどのような仕様が含まれるんでしょうか?

中村:簡単に言えば、5Gの特徴をセルラーV2Xに活かしてさらに高度化するもので、より低遅延でより高速、高信頼になります。3GPPでもいろいろなユースケースを前提に標準仕様が開発されました。複数の車両間でセンシングデータを共有し合って安全面を向上するような、高速化を必要とするユースケースや、自動運転、遠隔運転、プラトゥーニング等の低遅延を必要とするユースケースがあります。

---:セルラーによるV2V的なものですか?

中村:そうですね、セルラーの技術を活用したV2Vですね。V2Vだけでなく、V2I, V2P, V2Nもあります。

---:セルラーでV2Vというと、信頼性や遅延に課題がありましたが、それを5Gによって解決できるということでしょうか。

中村:そうですね。完全に解決とは言えないのですが、よりよく使えると思います。特にV2Vは無線なので、車と車の間に大きいトラックが入ったら、おそらく通信が切れてしまうか、性能が悪くなってしまう。それにしても性能はLTEより良くなっているということですね。

あとポイントは、V2Vだけではなくて、V2Nにおいて我々のセルラーネットワークも適材適所で利用して、いろいろなユースケースに対応することが有効だと思っています。我々はセルラー事業者なので、ネットワークを使ってより良くできるというストーリーも訴求していきたいと思っています。

---:V2Nを使って例えばどのようなことができるのでしょうか?

中村:まず前提として、多くのITSサービスはITSサーバーを使って情報を配信したり、サーバーに対して情報をアップロードして、それを分析して安心安全のために車や人(スマートフォン)などに情報提供していますので、いろいろなことに対応できると思います。V2Nの方が広域性がありますし、車の影に隠れてV2Vが通らないという時でもV2Nであれば通るケースはあります。より安定してより広く使える可能性がV2Nにはありますね。

その一方で、ネットワークを介しているためにV2Vほど低遅延を狙うというのは難しいので、かなり低遅延性を求められるようなユースケースには向いていないのですが、V2Nでもそんなに遅れるわけではなく、遅いとしても100ミリ秒程度なので、そのレベルで使えるユースケースであればV2Nで広域で安定して使うことができます。

DSRCと5GセルラーV2X

---: 5GになってセルラーV2Xは一気に広がる兆しがあるのでしょうか?

中村:そこはまだわからないですね。現在はLTEのセルラーV2Xが中心ですが、世界的に見るとまだあまり普及が進んでいないという状況です。加えて、日本国内ではV2Vで使う周波数がまだ混沌としています。世界的には5.9GHz帯が割り当てられていますが、日本では5.9GHz帯は放送関係者が使っています。総務省でも、世界に合わせて5.9GHz帯をV2Xに使う可能性をご検討頂いていますが、まだ正式に決まっていません。

もう一方で大きな課題は、誰がお金を投資してセルラーV2Xのユースケースを作るか、ビジネスモデルがまだ見えていないという点です。まして日本では、DSRC・ITS Connectがすでにありますしね。

---:確かにそうですね。

中村:ですので、DSRCに対してプラスアルファの価値が必要だということはよく言われます。5GのセルラーV2Xは、LTE-V2XやDSRCよりは新しい標準仕様なので、機能的には上だと思っています。我々としては、LTE-V2Xでも実証実験や技術的な検証もしてきましたが、5Gに向けてもこれから積極的に検証していかなければいけないと考えています。

また、先ほども言いましたが問題なのはビジネスモデルです。誰がお金を投じて何をするか。これに関しては例えば、税金を投じてシステムを作り、安心安全サービスを提供するという方向性もあり、その負担は受益者負担が基本なので、ドライバーの方もしくは車を持っている方が(税金で)払うというモデルですよね。

また保険会社のモデルもあります。事故が少なくなれば保険会社にとっても良い事なので、保険会社がお金を投じてセルラーV2Xのシステムを作るというストーリーや、スマートシティを作ろうとしている地方自治体がお金を投じるストーリーなど、いくつか考えられます。実際に成就するかはまだわかりませんが、いずれにしてもそういう議論からしていかないといけないと思っています。

---:NTTドコモの取り組み事例はありますか?

中村:自動車業界企業とともに、セルラーV2Xを検証するためのテストコースと検証ツールを用意しました。

---:これはカーメーカーやサービサーがテストコースで実際にテストできるということですか?

中村:そうです。それほど大規模なテストコースではありませんが、基本的性能の検証や、信号との通信でどういうことができるか、V2V、V2IとV2Nを組み合わせてどのようなことができるかなどのことを検証できる場になっています。

6Gは地上カバレッジ100%も可能な技術

---:次に6Gについてお聞きします。まず、6Gは5Gとどう違うのでしょうか。

中村:5Gよりもさらに高性能で、高速大容量、低遅延など10倍から100倍ぐらい性能が上がります。サービスエリアも100%で、空から海まで全部カバーしようと思っています。

---:それはすごいですね。

中村:クルマでの利用という面では、地上100%のカバレッジは重要なポイントだと思います。どこを走っていても通信できるということですね。また自動車メーカーから見ても、本来であればデータを全部吸い上げサーバーにアップして、クルマの状態を見て補修やメンテナンス、将来的な開発にも使いたいというご要望は頂いていますが、今のところは、データを全部上げたらとんでもないデータ量になって、我々のネットワークもパンクしてしまいますので、かなり選別してデータを上げていたり、Wi-Fiが繋がるところで上げるなどしています。

---:今はそうですね。

中村:6Gであれば、随時大量のデータを上げられる可能性が出てくるということです。車の開発、補修、メンテナンス、さらに事故の予防という面で有効になる可能性があると思います。

---:6Gの100%のカバレッジというのはどのように実現されるのでしょうか。まったく新しい概念の技術なのですか?

中村:そうです。違う技術を使います。5Gまでのいわゆる「地上系」のネットワークでは、ビルの上や山の上に基地局を立てる方式ですが、それだと100%カバレッジは無理なので、「非地上系」のネットワークに着目しています。これは衛星やHAPSと呼ばれる成層圏に飛行機を飛ばすソリューションです。衛星系はワンウェブ社やスペースX社の低軌道衛星が既に話題となっています。空から効率よく電波を吹いてエリアを広げます。HAPSについては弊社はAirbus社と技術的に協力し、NTTやスカパーJSAT様とも連携して商用化に向けた検討を進めています。

---:なるほど。6Gは次の10年、つまり2030年から商用サービス開始でしょうか?

中村:基本そうなのですが、6Gの議論が世界でどんどん進んでいて、2、3年前倒しで進んでいるので、2030年よりも前に世界のどこかで商用化される可能性はあると思っています。

中村氏が登壇する無料のオンラインシンポジウム【日本発!モビリティ変革事例】産官学・モビリティコンソーシアム会議は7月28日開催。
《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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