アフターマーケットで進む『DX』、ビジネスの現状と今後[業界対談]

【特別対談】アフターマーケットビジネスで進むDXの今後…大山堅司氏×松永博司氏×三浦和也氏
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国を挙げて進むDX(デジタルトランスフォーメーション)の流れの中で、自動車アフターマーケットのビジネス環境も大きく変化することが予想される。

そのような背景の中で、自動車アフターマーケットの現状と今後の展望について、関連するそれぞれのビジネス分野で活躍する3人の特別対談が実現した。

ー聞き手:JCR 松岡大輔

<プロフィール>

■株式会社ブロードリーフ 代表取締役社長 大山堅司氏
自動車アフターマーケットビジネスに関わるアプリケーションの提供やプラットフォーム開発などを通じて、自動車整備やガソリンスタンドにおけるビジネス環境のDXに寄与している。

■株式会社ジェイシーレゾナンス 代表取締役社長 松永博司氏
国際オートアフターマーケットEXPO(IAAE)事務局長などの立場から、特定整備認証や車検証の電子化などルール変更がもたらす業界の構造変化について、様々な発信や提言を行っている。

■株式会社イード 社長室長 三浦和也氏
自動車ユーザーのDXについて、WEBメディアのみならず、ベンチャー支援&協業のアクセラレータープログラム「IID 5G Mobility」を通じてMaaS(モビリティのサービス化)の推進に取り組んでいる。

◆CASEによる自動車利用環境の変化

~ガソリンスタンドにおけるビジネスの変化~
----:大山氏は整備や修理をはじめ補修部品販売など自動車アフターマーケット事業者向けのビジネス支援システムなどを展開し、今回ガソリンスタンド向けシステムも発表します。セルフ化や給油機会の減少が予想されているガソリンスタンド業界について、どのように捉えていらっしゃいますか。

大山堅司氏(以下敬称略):元々、弊社がガソリンスタンドなどのビジネス支援をすることになったのは、給油メインの事業形態から変革を余儀なくされているガソリンスタンド側の要請とニーズが大きかったからです。今回のシステムは、ガソリンスタンドにおける接客フロントの対応力の強化がポイントになっています。今後、整備や販売など接客力が肝になる新たな事業を模索するガソリンスタンドには我々が推し進めている自動車アフターマーケット向けの様々なソリューションをご利用頂ける可能性が高いと思います。

松永博司氏(以下敬称略):つまり、ガソリンスタンドの二極化が進む中で、コンプライアンスにしっかり対応した整備や販売などの事業を構築し、集客ポータルとしてユーザーの接点を強みにした変革を進めるガソリンスタンドに可能性があるということですね。

三浦和也氏(以下敬称略):車検は2年に1回しかないが、給油のお客さんは毎月来る。接点が濃いですね。我々が自動車ユーザー向けに提供している「e燃費」では月に2回の給油というのが平均的なユーザーです。

大山:燃料消費が伸びない中で、ガソリンスタンド経営者は自社の持っている「スタンド」という場所をどのように変えていくべきか、考えた先にあったのが「水素」と「給電」です。将来的にポテンシャルのあるそれらのビジネスを展開するための場所として「スタンド」を持っていると考えれば、現在注力すべき自動車アフターマーケット関連事業が見えてきます。

松永:10年後か20年後かは分かりませんが、技術刷新の話と法改正の話でEVが来るタイミングは必ずあります。そこで、水素なのか給電で行くのか、ロードサイドの土地という資産を持っているスタンドの経営者は考えるでしょうね。

大山:ここ5年くらいの間に、先ほどお話したようなガソリンスタンドを集客ポータルとして考えるところにEVの充電用のクルマが集まるはずです。そこで経営者の方々は、今までのガソリンスタンドのような形態ではなく、駐車場のようにクルマが何台か停められるようになるスペースを作り、充電の間は待っていないといけない時間を作る。その待っているスペースを活用し、様々な商談までできる仕組みを考えています。必ず待たなければならないタッチポイントで、クルマに関わる様々な商談を行える仕掛けですね。こういう動きは既にあります。

松永:整備システムや部品関連システムなど御社がこれまで展開してきた強みを、タッチポイントという強みを持っているガソリンスタンド向けに繋げていける。



三浦:ちなみにこの仕組みを自動車メーカーのスズキが採用して、豊中市のディーラーで実証実験を行っています。自動車メーカーも利用する仕組みだということも安心感を感じていただいていると思います。他にも九州電力がマンション住民向けのEVカーシェアを始めたり、NTT東日本では休日使わない社用車をカーシェアにしたりするなど、これまでとは全く違うプレーヤーがクルマを利用したサービスに踏み出しています。清掃や点検は週に1回程度、もちろんメンテナンスはプロが行います。

大山:弊社で今後展開する予定の新しいクラウドサービスの仕掛けの一部に繋げられると面白そうですね。代車管理システムはあるので、管理部分をAPIで繋ぐことは可能かもしれません。

三浦:今、困っているのが、鍵を共有している車種のリサーチです。例えば、アクアとプリウス30の鍵は一緒ですが、それは実際に鍵を取り寄せて、型番を見て初めて分かるのです。部品データベースなどで鍵の型式から共通車種が分かれば、代車を管理する整備工場にとってもメリットを提供できます。

松永:クルマの鍵以外でもアプリを利用した事例が増えていますから、鍵のスマートフォン化が進み、カーシェアなどの追い風になることは間違いないのではないでしょうか。

◆DXの進化

大山:旧世代の車からEVに変わる過程で、新しい車両になると自動的にメーカーサイドも、様々なデジタル化をするでしょう。パネルの全面デジタル化や先ほどの鍵もそうですね。ただ、クルマのモデルチェンジサイクルはスマホと違い長く、買い替えスパンもどんどん伸びている。変わる過程において出るニーズと、変わりきった後に起こることを、技術、場所、人の3つのカテゴリーにおいて、どうシームレスに繋げていくか。そこが勝負の分かれ目になると思いますね。

松永:早すぎても遅すぎてもダメだと思います。過渡期の汽水域の量がどれくらいあるのか。実は他にも、アフターマーケットの領域で結構残っている部分がある気がします。車の平均使用年数も14年に近付いています。こんな耐久消費財はなかなかありません。過渡期のビジネスと8,000万台というストックマーケットで、どこまでのビジネスを描くかが重要で、このキーワードがDXを進める上で重要だと私は思っています。

三浦:私がしてきたメディアは過渡期が好物です(笑)。安定してしまうと資本の原理が働き、大手が有利に。コモディティ化すると粗利が取れない。過渡期は新規事業にとっては良い環境です。どんどん変化するのだから、安定してから安く買えば良いじゃんという消費者もいますが、未来の当たり前を感じて移行してくれる消費者やパートナーとビジネスを育てるのはエキサイティングです。

大山:「EVになったらパーツも減る」と言う人もいますが、EV化するまでに何年掛かって、逆にEV化されない側のニーズがどれくらい大きくなるかを考えなくてはなりませんし、変化の過程で付加価値が増大する部分もあります。当然、自動車補修部品ビジネスにも関わっている立場として、過渡期のビジネスをしっかりと描いていきたいと思います。

松永:濃くなる部分、残る部分について言うと、トヨタはGRブランドで、日産はNISMOブランドでヘリテージパーツを出しましたよね。残存車両の台数によって消耗部品などにも商機があり、さらにその車種の嗜好性が高いと事業化の可能性も上がるということだと思います。

大山:リサイクルパーツなどでもそのような動きが出ています。嗜好性の高い高級車のパーツをストックすることで、後々のビジネスに繋がるのではないでしょうか。

また、DXの話に戻りますと、先日プレスリリースの配信を行いましたが、弊社はGoogle Workspace(TM) の取り扱いを開始しました。まずはこれを弊社のクライアントである自動車アフターマーケット事業者の方々にしっかりお勧めして、DX化を進めていきたいと思います。クラウドには顧客と繋がる仕掛けがたくさん用意されています。

まだ全てはお話しできませんが、対カーオーナーと事業者がクラウドサイドで繋がる仕掛けを作っていくことによって、デジタル化を促進し、業界の作業効率、生産性を上げるとともに、先ほどのEV化への変化の過程で残る部分と、変化の先に顕れる新しいビジネスの部分にクライアントを繋げていくことにフォーカスしてサービスを提供しようとしています。単なるモノ売りの考え方とは違うサービス提供、繋がりの仕組みですね。

松永:御社がこれまでしてきたビジネス支援は、見積にしても発注にしても業務の効率化を推進していましたが、これからは事業者とユーザーのレイヤーでDXを推進して、新しいプラットフォームを展開していくということですね。

三浦:メディアはリーマンショックの前後でDXが起きました。バナー広告がネットワーク広告になり、データ駆動広告に置き換わりました。圧倒的に効率化、省人化が進みましたが、歪みも出ました。そして約10年後の今、今度は社会がDX化しようとしています。今は現金やFAXなどアナログな部分が社会の至る所にあり、データが繋がりません。データ駆動型のビジネスは、経験やノウハウよりもデータによる効率が決定権を持ちます。

◆自動車の進化がもたらすルールの変更

~特定整備認証とビジネス支援システムの進化~
----:昨年4月から施行となった特定整備認証。猶予期間が4年ということもあり、整備業の対応は比較的緩やかとの印象もありますが、エーミングを含めた電子制御装置整備への対応についての考えを教えて下さい。

大山:まず、そもそも何のための猶予期間かということを理解していない人が多いのではないでしょうか。猶予期間は期限が来たら切り替わるという期間ですよね?そこまで時間があるということではないのです。切り替えられない財政的な理由や人的理由などがあるから、免除しますと言っているだけに過ぎません。その意味をきちんと捉えて、いつやるべきか、投資するべきかを判断できないと、さらに厳しい環境にさらされるでしょう。

早く対応すれば、それだけ優位性・アドバンテージが生まれます。そのアドバンテージを得て、事業を推進していくことができる期間であると捉えるほうが良いのではないでしょうか。

松永:例えば、御社のシステムで、電子制御装置整備対象車両のパーツ発注が整備工場から部品商にあったとします。その場合、特定整備認証を持っていない工場が発注してはダメだということが部品商側から見えますよね?

大山:見えてはいますが、発注後に外注の下請けに出す可能性もありますので、発注をお断りすることはできません。



松永:弊社では、自動車アフターマーケット事業者ごとのプロファイリングを今、一生懸命作って、地域の事業者を検索し、連携できるようにしています。この「ARC」というサービスを提供して、地域の事業者ごとにできることとできないこと、特に強みの部分をはっきりさせて、DXとともに地域連携を促進させていくということを大事にしたいですね。

◆コロナ禍で変わった社会環境と自動車アフターマーケットの今後

~コロナが変えたもの~
----:コロナ禍は社会の価値観を大きく変えました。自動車アフターマーケットにおけるコロナの影響をどのように捉えていますか?

大山:もし車検制度が無ければ、他業界のように大きな影響を受けていたかもしれません。車検制度という法定需要に守られた一方で、運輸支局の業務のように人がいないと処理ができない業務が顕在化されてきたと言えます。

松永:確かに運輸支局でしかできない業務があり、現在でも事業者が多く集まっていますね。

大山:これからの話ですが、その業務の一つである名義の書き換えが大変革を起こすことになると思います。もし、この申請が電子化されればCtoCのクルマの販売が開花する可能性があると思っています。

CtoCの車販のネックは何といっても名義の書き換えにあります。例えばクルマを売る時、名義を書き換えないで乗ることもできますが、万が一の事故を避けるために、売る側は名義変更をしないと怖いと思います。現状、とても面倒な手続きがデジタル化されれば、これらがワンストップになりCtoCの自動車販売が拡がるのではないでしょうか。

松永:この第一歩が車検証の電子化ですね。

大山:さらに2026年には、免許証もデジタル化が予定されています。マイナンバーとも紐付くので、保険も免許も所有者が必ず運転できるクルマか否かの照合もできるようになります。そうなると従来とはまた違うビジネスが生まれることも予想されますね。

松永:私は自動車指定整備工場にとって、これは新しいビジネスになると思っています。電子化によって車検証の書き換えができるようになる自動車指定整備工場は、大きな強みを持つことになると思います。

大山:車検証の電子化や免許証のデジタル化、これによってクルマの所有権移動がとてもスムーズになることもDXだし、車検というインスペクションも変わります。そこまでの大変革がもう何年かで起こる時に、本当に自動車アフターマーケットで生き残るためには、今、何をすべきなのかを関わる人たちはしっかり考えるべきですし、自動車整備事業者さまを始め、自動車アフターマーケットの事業者さまの声に耳を傾け、支援し続けていきたいと考えています。

---:大山様、松永様、三浦様、本日は貴重なお話をありがとうございました。


◆3月17日(水)~19日(金)にオンライン開催される「第18回国際オートアフターマーケットEXPO2021 ONLINE Vol.1」では今回の対談テーマであるDXについて、株式会社ブロードリーフおよび株式会社イード(三浦氏登壇予定)のセミナーも配信される(聴講無料/要事前登録)。
《松岡大輔@JCR》

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