【KTM 1290スーパーデュークR 海外試乗】完璧に調教された従順なビースト…伊丹孝裕

KTM 1290スーパーデュークR
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メーカー自ら「THE BEAST」、つまり「野獣」と呼ぶ、物騒極まりないモデルがKTMの『1290スーパーデュークR』である。

なにせ排気量は1301ccもあり、最高出力は180hpに到達。なのに乾燥車重は189kgしかないのだ。パワーウェイトレシオに換算すると1.05kg/hpという異様さで、鍛え上げられたその体躯はバッキバキ。

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実際、ヘッドライトもサイドカウルも削ぎ落されたかのように鋭く、どこをどう見ても余計な脂肪はない。KTMがラインナップするモデルの多くはトゲトゲしいた佇まいをしているが、その中でも群を抜くアグレッシブさだ。

1290スーパーデュークRは2014年に登場したスポーツネイキッドで、2017年にマイナーチェンジが施された。この2020年型が初のフルモデルチェンジとなり、特にフレームや足まわりを完全に刷新。そこに従来モデルと共通するパーツはなにひとつない。

そんな新型1290スーパーデュークRの国際試乗会が2020年初頭に開催されたため、その模様をお届けしよう。

あえての難コースは自信のあらわれ

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試乗会場には、ポルトガル南部に位置する「ポルティマオサーキット」が用意された。コーナーというコーナーはほとんどすべて上っているか、下っているかという特殊なレイアウトを持ち、空にむかってフロントタイヤがリフトしたかと思ったら、今度は落下するように急降下。ジェットコースターさながらのトリッキーなレイアウトを持つ。

車体姿勢を制御する電子デバイスとハンドリングに難があれば走りたくないサーキットだが、KTMの開発陣にはその自信があったということだろう。実際、それはすぐに体感することができた。

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シート高は835mmある。平均的な体格の日本人男性でもツマ先立ちは免れないものの、このクラスのスポーツバイクとしては特別高くも低くもない。手を伸ばした自然な位置にハンドルがあり、ライディングポジション自体は安楽だ。そのため、野獣にまたがっているというプレッシャーは感じずに済む。

ハンドルには様々なボタンが配されているが、操作は難しくない。5インチの大型ディスプレイ内に表示される情報を読み取りながら、多用するであろうライディングモードの切換は直感的に行うことができるはずだ。

この新型は完璧に調教されている

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既述の通り、排気量は1301ccに達しつつも気筒数は2つしかない。つまり、1気筒あたりの容量は650.5ccあり、その内部では最大1万回/分を超える爆発が繰り返されるのだから、なかなかの危うさだ。スロットルを軽く吹かすだけでタコメーターの目盛りは激しく上下動し、確かに吼え狂う野獣の片鱗を漂わせている。

ところが、猛々しいのはそこまでだ。操作力の軽いクラッチレバーを無造作に離しても神経質な挙動はない。たっぷりとしたトルクによって車体はスルスルッとスムーズに押し出され、そのまま力強く増速していく。初期のモデルは、こうはいかなかった。一発一発の爆発力が強大で、低回転域ではギクシャクとした挙動を誘発。野獣とは言わないまでも、しつけられていない大型犬くらいの奔放さがあり、勝手に前へ進もうとするあり余る元気を「どうどう」となだめる必要があった。

それが一転。この新型は完璧に調教されている。最も過激なライディングモード「トラック」を選んでも出力特性が急変することなく、伸びやかに回転が上昇していく。もちろん、加速に不満があれば排気量の無駄使いだが、時に200km/h、あるいは5速からでもフロントタイヤが浮いてくるほどのキック力を披露。低回転の滑らかさと高回転のパワフルさが両立しているところに、緻密な作り込みがうかがえる。

ライダーをもてなす高度な電子デバイス

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ちなみに、浮いてきたフロントタイヤはそのままにしておいてかまわない。一定のところで止まり、勝手に着地してくれる。なぜなら、ウィリーコントロールが作動してくれるからで、このセーフティデバイスをオフにしない限り、後ろへめくれ上がるようなことはない。この他にもトラクションコントロールやスライドコントロール、コーナリングABSなどが車体の隅々に張り巡らされ、ライダーのスキルをサポート。過信は禁物ながら、そうやすやすとは転べないはずだ。

さて、エンジンと同様、車体もグッと洗練された。クロームモリブデン鋼が組み合わせられたパイプフレームは、先代モデルよりシンプルになり、2kgの軽量化を実現。それでいて、ねじり剛性は3倍に向上するなど、まったく異なる構造になった。必然的に、そこに連結されるスイングアームの形状もリヤサスペンションの取り回しも根本的に見直されている。コーナーで車体をパタンと寝かせ、エンジンパワーで立ち上がり加速を稼ぐタイプがこれまでのモデルだとすれば、新型はきれいな弧を描くようなハンドリングが特徴だ。

エッジの効いたスタイルとは裏腹に、ひと言で言えばライダーフレンドリーなキャラクターが新型1290スーパーデュークRである。すぐに身体に馴染んでくる高い一体感を身上とし、サーキットの限界走行に限らず、ストリートで見せる軽やかな動きも過去最良のものだ。スポーツ性の高さを誇るビッグツインは数多く存在するが、現在ベストの完成度を持っていることは間違いない。

新型1290スーパーデュークRの国内発売は2020年4月から始まっている。車体色はブラックのみで、217万9000円(税込)の価格が設定されている。

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■5つ星評価
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
コンフォート:★★★★
足着き:★★
オススメ度:★★★★

伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

《伊丹孝裕》

モーターサイクルジャーナリスト 伊丹孝裕

モーターサイクルジャーナリスト 1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

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