気温マイナス20度! この酷寒の中で、初めて犬ゾリを体験した。雪上で移動する手段として北極圏で普及した犬ゾリは、クルマでの移動に慣れた現代人にとってどんな印象に映るのか。フィンランド北部ラップランドでその走りを体験してきた。
当日は時折雪が舞うものの風もほとんどなく、青空も顔をのぞかせるまずまずのコンディション。出発地に着くとすでに犬ゾリの準備は出来上がっていた。この日、犬ゾリを引いてくれる犬はシベリアンハスキー6匹。先頭には最も若い1歳前後の2匹が、最後部には10歳近くの“ベテラン犬”が配置された。
さて、スタート前に簡単なレクチャーを受ける。それは主にブレーキのかけ方だった。ソリにはアルミ製ブレーキが備わっており、操縦者はソリの後ろに立って足を乗せながらコントロールする。軽いブレーキをかける際は片足でいいが、パーキングブレーキのように完全停止する時は両足を使って強く踏む必要がある。それも全体重をかけてブレーキの上に乗ることが重要なのだという。でないと犬の力がかなり力強く、犬たちに引っ張られてソリが動き出してしまうのだそうだ。
レクチャーを受ければいよいよ出発だ。先導のスノーモービルが走り出すと、犬たちはそれを追いかけて元気よくスタートした。その力はかなり強く、スタート直後は身体が後ろへのけぞってしまうほど。コースに出た後も快調に速度を上げていき、多少の上り坂はまったく平気。聞けば、6匹の犬ならソリが250kgぐらいの重さでも許容範囲。そのパワーたるやディーゼルエンジンの粘り強さを見ているようだった。
一方で乗っている方は操縦らしい操縦はほとんどない。下り坂で犬よりもソリが前へ出ないようブレーキで速度を調整する程度だ。ほとんどは犬に引っ張られていくのを見ているだけ。ただ、コースが出来ているところでもカーブに差し掛かるとそりの後ろが外側へ膨らみ出す。そんな時はスキーの要領で、体重を移動させてコントロールさせるとスムーズな動きになる。私はこれを積極的に行っていた。実はこうでもして身体を動かさないと寒さに耐えられなくなってしまいそうになったからだ。
走行中に気付いたことだが、先頭の2匹は無心に前を見て走っているが、最後部の2匹は後ろを振り返ったり、雪を食べたりと余裕の様子。休憩に入ると途端に雪の上でひっくり返ってお休みモードだ。その一方で先頭の犬たちはもっと走りたいのか、休む度に「ウォー、ウォー」と吠えまくる。何とも両極端な犬たち。聞けば先頭の2匹は一番若くて、最後部の2匹は経験を積んだ10歳前後の年配犬なんだという。頑張り屋と怠け者をバランス良くチームが組まれているわけだ。
そんな個性的な犬たちに引っ張られること約1時間弱。森林の中を走ったり広い雪原を横切ったりと、走行中は自然の中で戯れている感じがして爽快そのもの。寒さ故に出てきた鼻水が顔の上で凍り出すといった“珍事”もあったが、体験としてはかなり楽しい。そんな厳しい寒さも忘れてずっと走っていたくなるほどだった。