【中田徹の沸騰アジア】東アフリカ訪問で再認識したアジア製造業の競争力

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トヨタ、南アフリカ工場
  • トヨタ、南アフリカ工場
  • ベトナム ハノイ(参考画像)
  • カンボジアの首都、プノンペンの街並み
  • ミャンマー

「中国の賃金が高くなったので工場をベトナムやミャンマー、バングラデシュなどに移している。生産拠点が最終的にたどり着く先はアジアのどこかだ。アフリカ進出は考えていない」 

1~2年前、衣料品の縫製メーカー(日系企業)の方がそうした主旨を話すのを聞いた。

サブサハラアフリカ(サハラ砂漠以南)の人件費が世界で最も低いと思い込んでいた筆者は、心理面のハードルがアフリカ進出を妨げる最大の要因だろうと考えていた。

◆サブサハラの人件費は高い

東アフリカの中心都市、ナイロビを4月後半に訪れた。折しも自動車部品展示会「AUTO EXPO AFRICA」が行われており、その会場に足を運んだ。出展者の大半が中国とエジプトの補修用部品メーカーだったが、地元の自動車部品メーカーを見かけることはなかった。

ケニアには完成車の組立工場があり、いすゞ、トヨタなどのブランドのKD(ノックダウン)生産が行われている。1車種当たりの生産規模は数百台と言ったレベルで、組立用部品の現地調達はあまりできていない。ホンダも二輪車の組立を始めているが、中国から全ての部品(CKD)を輸入している。また、補修部品のほとんどが輸入されている。ケニアにおいて自動車部品メーカーは数える程度しか存在しておらず、軽工業を含めても製造業の産業集積は薄い。

一方で消費は堅調。自動車(四輪)の場合、需要の9割が中古だと言われるが、売れ行きは好調のようだ(渋滞の原因となっている)。また、ナイロビ中心部のスーパーマーケットを覗いたが、物価は安くない、と感じる。若者が行列を作っているテリヤキチキンのファーストフード店でドリンク付きのセットを頼んだら 490シリング(約630円)だった。

物価の高さは農業の弱さが原因だ。ケニアなどの場合、食料自給率が低く、これが物価高を引き起こしている。消費者物価の高さは人件費の高さにつながる。ナ イロビの製造業ワーカーの賃金は150~200ドルで、ASEAN後発国より高い。今回、タンザニアにも足を伸ばしたが、状況は似ている。東アフリカにお いて製造業の工場進出が期待されるのはエチオピアくらいだ、という話を幾度か聞いた。

◆アジアの製造業の強さ

新興国が着実な経済成長を実現するためには、安定的な収入をもたらす製造業の強化が必要だ。安定収入は中間層を生み出し、消費能力の拡大につながるためである。特に、資源の少ない国では産業育成が重要課題であり、製造業の誘致に取り組む国が多いのはそのためだ。

一方、企業が生産拠点の立地を決める際の検討事項には、マーケットの大きさ、市場・顧客への距離、人件費、投資優遇策などが含まれる。新興国を含むグローバルマーケットを狙う場合、安価な労働力を求めて生産拠点を移す企業が少なくない。近年では、中国+1やタイ+1といった動きのなかでカンボジア・ラオス・ミャンマー・ベトナム(CLMV)といったASEAN後発国が新たな進出先として注目を浴びている。

CLMVの工場ワーカーの賃金は1か月100~170ドル程度である。世界で最も低い水準のバングラデシュ(80ドル前後)やエチオピア(約50~70ドル)と比べると高いが、市場・顧客へのアクセスや産業インフラなどの要素を考慮すれば、CLMVの優位性は高い。連結性の強いASEANの場合、産業集積 が進んでいるタイをコスト競争力のあるCLMVが支える分業・補完体制の構築が始まっており、全体として高い競争力を内包する。

消費材市場の成長性が注目されるサブサハラだが、人件費や生産性の面で競争力が低いことを理由に、有望な生産拠点として考えている外国企業は少ない。食品加工などの内需向け工場は今後も増えるだろうが、グローバルサプライチェーンに入り込むことは容易でない。言い換えれば、アジアが「世界の工場」のポジションを長い将来にわたって維持する、ということだ。

《中田徹》

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