泰緬鉄道で日本人通訳が見たもの…「レイルウェイ」先行上映会

鉄道 エンタメ・イベント
泰緬鉄道で日本人通訳が見たもの…「レイルウェイ」先行上映会
  • 泰緬鉄道で日本人通訳が見たもの…「レイルウェイ」先行上映会
  • 泰緬鉄道で日本人通訳が見たもの…「レイルウェイ」先行上映会
  • 泰緬鉄道で日本人通訳が見たもの…「レイルウェイ」先行上映会
  • 故 永瀬隆氏
  • 故 永瀬隆氏
  • 戦後、再び泰緬鉄道を訪れた、故永瀬隆氏。
  • AERA編集長、浜田敬子氏。
  • 自身も幼少期に戦争体験をもつサヘル・ローズ氏(女優・タレント)

4月12日、映画「レイルウェイ 運命の旅路」の先行上映会が催された。会場は青山学院大学。この映画に登場する旧日本軍通訳・永瀬隆さんの出身大学(英米文学科)だ。

上映後のトークセッションでは、これからの世代が戦争にどう向き合うべきか、20代から60代まで世代を越えた議論が行われた。

上映会には3人のゲストが来場した。自身も幼少期に戦争体験を持つ、女優・タレントのサヘル・ローズさん、この映画に登場する永瀬さんを長年取材してきた瀬戸内海放送記者の満田康弘さん、そして「AERA」編集長の浜田敬子さんだ。

人はどうすれば憎しみをこえて和解できるのか

この映画は1942年のミッドウェイ海戦後、新たな物資輸送ルートとして日本軍により建設計画が断行された「泰緬鉄道」にかかわる史実をもとに、鉄道マニアの英軍将校、エリック・ローマクスと、日本人通訳・永瀬の二人を中心に描いている。

泰緬鉄道は、タイとビルマ(現在のミャンマー)を結んでいた鉄道路線。日本軍による強制労働で英兵捕虜とアジア人が建設作業に従事し、劣悪な労働環境の中で拷問や暴行も行われ、捕虜だけでも1万2400人が死亡したとされる。その悲惨さから旧連合軍に「死の鉄道」と称されたという。

そこで捕虜となり拷問をうけていたローマクスと、通訳として居合わせた永瀬の二人が戦後再会し、和解に歩み寄るまでを追っている。作品を通じて「人は憎しみを断ちきれる」というメッセージを伝えるという。

その過程では、過酷な拷問を黙視した“ナガセ”に対するローマクスの怒り、憎しみ、殺意と、“ナガセ”がさいなまれた罪の意識がありありと表現されている。

映画をみた女優のサヘルさんは、ここで拷問している側、されている側の双方が戦争の“被害者”である、と指摘した上で、作品を通じて「ゆるすことの大切さ」を学んだと述べた。

また、「戦争は物理的な破壊だけでなく人の心の破壊も招く。戦争に行った人だけではなく、その人の周りで支える人にも深く影響する。もしかしたら自分が気づけていないだけで、このように苦しんでいる人が日本にも、まだたくさんいるかもしれない」とコメントした。

罪の意識を抱えた永瀬さんによる、生涯をかけた和解活動

続いて、永瀬さんを20年に渡り取材した満田さんが語った。

永瀬さんは泰緬鉄道建設後の人生を「和解」に尽くした。1964年、オリンピックとともに海外旅行が自由化されると、すぐさまタイへ渡った。生き残った英兵捕虜との和解の会も立ち上げた。

当然ながら「そこでは目も合わせない旧英兵もいた。日本兵などと握手するなど絶対にできないといいはる人もたくさんいた」(満田さん)。それでも永瀬さんはタイの留学生受け入れや奨学金創設など、さまざまな活動を通じて償いにつとめたという。永瀬さんは2011年に亡くなるまで、タイへ135回渡航している。

その根底にある信念はなんだったのか。

満田さんは「永瀬さんはいつも、自分がしたことには責任を取らなければならない、親切にされたらお礼をしなければならない、この二つのことを愚直なまでに貫いていた」と評した。

永瀬さんは亡くなったが、彼の銅像は今もタイのクワイ河を見守っている。

何が和解を妨げるのか?…「日本人特有の“個”の未熟さ」

さらに、満田さんは「永瀬さんのように、日本人の一人として罪の意識を抱き、和解に尽力する人がいる一方で、罪の意識を持たない旧日本兵もいる」とする。

満田さんは永瀬さんに同行し、旧日本兵と当時捕虜になっていた旧英兵の和解の会に参加したが、旧日本兵の中には「命令に従っただけで、悪いことをしていない」と考える人もいたという。

満田さんはこれを「集団としての軍の存在、正義が、個人としての良心に勝ってしまう、日本人特有の心の働きから生まれるのでは」と表現する。

つまり「自分たちが悪いことをしたと認めることで戦友や上司を否定することになってしまう」ため、これを避けたいという感情が湧くことになるのだという。さらに「忘れなければ自分がおかしくなる、という苦悩を抱える人もいる」と指摘する。

さらには「ヨーロッパでは12世紀に個人という概念ができているのに対し、日本では個というものの確立が進んでいない。そのため、集団としてどうなのか、を行動基準としてきたことが影響しているのでは」と、歴史的観点からも指摘した。

これからの世代はどう戦争に向き合うべきか…「義務教育と大学で知る史実に乖離」

その上で満田さんは、これから必要なのは自分たちを考察しなおすこと、和解の障害は何か考えることだと指摘した。

考察の具体例としてイーグルスの「the last resort」が挙げられた。アメリカの先住民族を虐殺したことを、神の名の下に正当化していることを批判した歌である。

最後に、会場に訪れた学生から質問が投げられた。

「高校時代に学んだ教科書の史実と、大学院で学ぶ史実にかなりギャップを感じている。そういう違いを知ってしまった時にどういったアクションを起こせばよいだろうか?」

これについてサヘルさんは「自身が受けた教育と違う事実、それによってショックを受けるようなことがあろうと、罪悪感を持ち恥じる必要はないと考える」とコメントした。

あくまで“次世代をつくる”一人の人間として自信をもって生きてほしい、と語ったうえで、自国に対する関心と誇りを持つことの重要さを強調した。

「レイルウェイ 運命の旅路」は、1995年度「エスクァイア」誌ノンフィクション大賞を受賞したエリック・ローマクスさん(2012年死去)の自叙伝「The Railway Man」を、アカデミー賞俳優コリン・ファース、二コール・キッドマン、国際派として活躍する真田広之の各氏が出演し映画化されたもの。原作は75万部の売上げを記録しており、満田さんいわく「イギリスでは広く知られた話」なのだという。

4月19日より角川シネマ有楽町、新宿ピカデリー他にて全国ロードショーとなる。

《北原 梨津子》

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース