巨大ブラックホール天体「いて座A」でこれまでにないフレア現象を発見…国立天文台

宇宙 科学
出典:国立天文台
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国立天文台の本間希樹准教授らの研究チームは、国立天文台のVERAと、アメリカのVLBAの共同観測から、銀河系中心の巨大ブラックホール天体「いて座A」で、これまで観測例のない変わったフレア現象を発見したと発表した。

研究チームは、本間准教授の他に、東京大学大学院理学系研究科の大学院生・秋山和徳氏、小林秀行教授らを中心とする研究チームで、これまで観測結果によると、このフレアが、巨大ブラックホールに付随している高温プラズマ流全体で何か変化が生じることによって起きたことを示唆しているとしている。

フレアが起きるメカニズムは、詳しく解明されていないものの、研究チームによると、これらプラズマ流全体で起きている現象は、謎に包まれた「いて座A」の正体を探る上で重要な手がかりになる可能性がある。

宇宙に存在する銀河の多くは、その中心に太陽の数100万倍から数10億倍という重さを持った巨大ブラックホールを持つと考えられている。地球のある天の川銀河の中心にも、太陽の400万倍の重さを持った巨大ブラックホールがあることが知られている。

この巨大ブラックホールには、電波で明るい「いて座A」という天体が付随していることが知られている。いて座Aは、数億から数10億度という非常に高温のプラズマガスからの光だと考えられているが、はっきりととした正体は分かっていない。

この天体を理解することは、天の川銀河のような一般的な銀河にある巨大ブラックホールで何が起きているかを理解する上で重要であると考えられている。

国立天文台が保有するVERAを始めとしたVLBIという観測装置は、非常に高い視力を活かし、ブラックホールの大きさに肉薄するスケールで、いて座Aを見ることができる。

研究チームは、2005年から2008年にかけて、国立天文台のVERAや米国のVLBAを使っていて座Aを観測した。この結果、2007年の5月に、いて座Aが電波フレアを起こしていることが分かった。

いて座Aでは、電波の明るさが数時間から1日の時間スケールで変わることが知られているが、今回のフレアは持続時間が最低でも10日以上と非常に長く、これまでに観測された例のない種類のフレアだった。

この観測結果からは、フレア時期の前後で、いて座Aの構造や大きさに大きな変化がないことも分かった。このため、フレアの原因がプラズマ流内の一部の領域にあるのではなく、プラズマ流全体で何か変化が生じたということを示唆していると考えられる。

このようなプラズマ流全体で起きている現象は、いて座Aの正体を探る上で重要な手がかりになる。

今後、このようなフレアが起きるメカニズムや、その背景にあるいて座Aのブラックホール周辺のプラズマ流の構造に迫っていくためには、電波帯の様々な波長帯で、VLBI観測を行い、いて座Aのブラックホールの近くのプラズマが電波帯でどのような「色」(スペクトル)をしているのか、観測波長ごとにどのような形をしているのかを調べていく必要がある。

研究チームでは、3月から本格的な科学運用が始まる日韓VLBI観測網(KaVA)や国際サブミリ波VLBI(EHT)を使った観測によって、研究を進めていく方針。

《レスポンス編集部》

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