様々なイレギュラーに対処しつつ、その影響を最小限に抑えるために日々努力している日本航空のオペレーションコントロールセンター(OCC)だが、「伝説級のイレギュラー対処」というものが存在しているという。
OCCでアシスタントマネージャーを務める関剛彦さんは「弊社にボーイング747-400型機があった頃なのでもう数年前の話ですが、OCCはここまでやる…こともあるという話です」と前置きし、その内容を話し始めた。
ある日、成田発ハワイ・ホノルル行きの出発準備を進めていたところ、短時間では修理不可能な機材トラブルが発生した。当日の予約客は449名だが、同じ座席数をもった機材が成田や羽田に無く、「代替不能」という連絡がOCCに寄せられた。これが午後8時30分。
OCCでは機材運用の担当者が747-400型で同じ座席数の機体を探し始めたが、重整備のため中国・廈門(アモイ)に向けて約1時間前に成田から離陸した同型機のフェリーフライトがあることを発見。整備に向かう機体であることから、整備担当者に総飛行時間の確認を依頼したところ、「ハワイを往復させても要整備の時間に問題なし」ということも判明した。
この報告を受けた当日のミッションディレクターは午後8時47分、「当該機を今すぐ成田に呼び戻せ」と指示。すでに中国大陸に向けて飛行していた機体は午後8時51分、成田に向けてのUターンを開始した。
成田空港には夜間の飛行制限があり、午後11時までに離陸を完了させなくてはならない。このため、運航統制部門は代替便がハワイに向けて離陸する予定時刻を午後10時30分に設定。整備スタッフは成田に戻ってくる機体を待ち構えた。
機体は午後9時45分に成田空港のスポットへ到着。重整備に向かう予定だったものなので、機内の搭載品はすべて外されていたが、ドアが開いた瞬間から機内清掃員をフルに投入。通常ではありえないような速度で、しかしそのクオリティはいつも通りという状態で、なんと36分間で出発前の作業を終了。午後10時21分には旅客搭乗を開始した。
ここで時間を要してしまうと飛行制限時間に引っかかるが、事前に説明がなされていたことから乗客も協力的でスピーディに搭乗が終了。午後10時38分にドアクローズしてタキシングを開始し、制限9分前の午後10時51分に成田空港の滑走路からハワイへ向けて飛び立った。
すでに飛び立っていた機体を呼び戻すというのは前代未聞だったが、この対処によって乗客への影響を最小限に抑えたことになる。ミッションディレクターの決断と、イレギュラーな事態への対処にあたるOCCスタッフと、現場(空港)のスタッフが一丸になった結果だが、後にここまでの対処を強いられたことは今のところないそうで、ゆえに「伝説」と化しているようだ。