【中田徹の沸騰アジア】白熱のASEAN商用車市場、日系中心にシェア攻防戦を展開

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ASEAN主要5ヵ国:中大型商用車販売構成(2012年)
  • ASEAN主要5ヵ国:中大型商用車販売構成(2012年)
  • ASEAN:日系4社中大型商用車生産台数(2010~2012年)

経済発展と経済統合が進む東南アジアが舞台である。物流需要やインフラ投資の増大を見込む中大型トラックメーカーが白熱のシェア攻防戦を演じている。主役は日野、三菱ふそう、いすゞ、UDトラックスだ。

経済発展とAECで成長機会が増加

東南アジアで事業展開する企業にとって今最も関心の高いテーマのひとつがASEAN経済共同体(AEC)だ。2015年12月にAECが発効すれば、域内の経済統合がさらに進む。言い換えれば、人やモノ、資金の移動が円滑化・活性化されることによって多様な成長機会が新たに生まれると期待される。

商用車メーカーとすれば、メコン経済圏のコネクティビティ(連結性)向上がもたらす果実を狙わない手はない。タイ、ベトナム、カンボジアを含むメコン地域では、各国間の経済発展(賃金水準)の差を背景に分業体制の再構築が見込まれ、これに伴って物流が増大する。つまりモノを運ぶためのトラックが必要となる。

また、インフラ整備のための建設用トラックの需要拡大も続く。既に東西経済回廊や南北回廊などの幹線道路の建設が進んでいるが、これらの大動脈に沿うように工業団地や物流センターなどを整備する動きも広がっているためだ。タイ政府は、2013年3月に発表した2兆バーツのインフラ投資計画の中で、タイ国内および周辺国を結ぶ物流網の拡充・効率化を図る考えを示している。

日系4社が積極投資を展開

AECを好機ととらえる商用車メーカー。東南アジアで高いプレゼンスを持つ日系を中心に生産面、販売・サービス面、製品面での投資計画が相次いで発表されている。主戦場はタイとインドネシアだ。

日野は、需要拡大を見込んで、タイとインドネシアの車両組立をそれぞれ1.3万台から3.3万台、5.2万台から8.7万台に引き上げるほか、マレーシアで年産1万台の自社工場を建設している。また、主要コンポーネントの生産の現地化と分業体制構築を進めている。インドネシアで小型エンジンの機械加工とアクスルの生産を行っているが、タイで中大型エンジンとデフの機械加工を新たに始める計画で、コスト競争力向上を狙う。

UDトラックスはASEANでのシェア獲得に本腰を入れる。2013年8月、新興国向け新型大型トラック『クエスター』を発表し、タイやインドネシアなどで受注開始した。2013年中にボルボグループのタイ工場でクエスターを組立開始する予定で、このために2万台分の生産能力を整備した。同時にタイなどで販売・サービス網の強化を進めている。投資額は合計で50億円を超えるとみられる。

キャンターを主軸にインドネシアで高いシェアを持つ三菱ふそうは、ダイムラーグループの経営資源を活用することで効率的に事業拡大を図る方針。2013年からはダイムラー・インディア・コマーシャル・ヴィークルス(DICV)で生産する中大型トラックをブルネイ、インドネシア、タイ、マレーシアなどに順次投入する計画だ。製品攻勢によりシェア拡大を目指す。

日野と三菱ふそうに次ぐシェア3位のいすゞ。タイでは、ゲートウェイ工場に中大型商用車の組立ラインを持つが、以前は塗装設備が無かったため80km離れたサムロン工場でトラックキャブの塗装を行っていた。しかし、2012年秋にゲートウェイ工場で塗装設備を稼働し中大型トラックの生産性を向上させた。また、インドネシアでの新工場計画に関する一部報道もある。車両増産と並行して、主要部品の現地化を進めており、コスト競争力の向上にも注力している。

シェア攻防戦は白熱

東南アジアでは、乗用車同様に、中大型トラック分野でも日系ブランドのプレゼンスが高く、90%前後の市場シェアを握る。電機や鉱山を含む輸出産業を多く抱えるタイやマレーシア、インドネシアなどでは、運行効率の良い日系ブランドが現地ユーザーの信頼を勝ち取っており、支配的なシェアにつながっている。

苦戦の場面もある。ベトナムでは、圧倒的なコスト競争力を誇る中国メーカーや地場企業の存在感が大きく、日系トラックメーカーは廉価製品の後塵を拝す状況にある。また、輸出企業が少なく運行効率に対する要求が高くないカンボジアでも中国製トラックが選ばれている。高品質な日本製は「高嶺の花」だ。

中国製トラックや韓国ブランド、インドメーカーのシェア拡大の可能性は否定できないが、全体としては日系優勢だろう。AECでは、環境性能の低い車両の周辺国への進入が規制される可能性があり、例えば、カンボジアを走る旧式の中国製トラックはタイには入れない、といったことも想定される。今後、車体価格以外の要素が重視される傾向は強まると考えられ、これは日系には追い風だ。

乗用車需要の成長ぶりに注目が集まる東南アジア市場だが、中大型商用車を巡る白熱のシェア攻防戦からも目が離せない。

《中田徹》

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