SCS Global タイ事務所(MAZARS (Thailand) Ltd. ジャパンデスク)
小出 達也 氏 (Director)
設立時・稼動時こそ重要な会計事務
タイ進出のご相談や会社設立のお手伝いで感じるのは、最近サービス関連業が増えてきたことだ。製造関連であっても、例えば資材・部品調達などはサービス業に含まれ、投資委員会(BOI)による投資恩典の認可を受けなければ、外資比率で規制がかかってくる。事業化調査を経て起業を決定し、会社設立にこぎつけても、仕事はこれから。この時点で売り上げや利益のみを優先せず経理体制を整えておかないと、後に苦労が待ち受けている。重要なのは設立時・稼動時だ。
出資比率確認でトラブル予防
日系企業のタイ進出は絶え間なく、そのほとんどは製造業だが、最近は製造業でも委託製造、機械・資材・部品調達、機械メンテといったサービス業が多くなってきた。製造関連以外ではIT(情報技術)メンテ、人材紹介業、小売業など、やはりサービス関連の業種が中心だ。BOIによる投資恩典を受けない限り全資外資は難しく、商務省に申請して特別な許可を受ける手法もあるが、外資比率は一般的に半数以下が求められる。信頼できる地場パートナーの当てがなければ合弁は不安だ。小売業など、全資外資が認められるのは資本金1億バーツ以上だ。
出資比率の問題を解決するために、名義貸しが行われる場合がある。弊社のようにコンサルをお引き受けすると共に実際に出資して実質的な経営に関与しない株主としてに名を連ねるのは合法だが、出資を伴わない文字通り名義だけの貸し借りは法的にも金銭的にもトラブルに発展することが多い。
「日本人を雇いたいが労働許可証の枠がない」とパートナーに相談したことにより、金銭問題に発展した質の悪い例がある。外国人1人を雇うに当たり、200万バーツの資本金の確保が必要となるが、パートナーから「空増資で大丈夫」とアドバイスを受け、一切を任せて書類に言われるがままにサイン。しかし、増資で増えたのはパートナー側の株。事業が行き詰まって清算となった時点で、パートナーから持ち株分の現金支払いを強要された、という例だ。
ここまで質が悪くなくとも似たような話は履いて捨てるほどある。コンサルで健全経営をアドバイスするはずのコンサル会社から被害を受けた例も多いので、まずはコンサル会社の正しい選定といったところだろう。
日本にはない「Authorized Director」という役職
事業化調査で起業を決断し、会社設立の事務を進める。設立自体は難しいことはなく、ほとんど書類の作成と提出を繰り返していくうちに終了する、といった感じだ。ただ一点、役員指名で多くの日系企業が戸惑うことがある。
英語でDirectorと訳される役員の指名があり、最低1名で上限はない。日本本社も役員に関しては、「タイ現法の責任を負う役職」と解釈するが、タイにはさらに「全権を行使するためのサイン権を有し……」という権限を持つ役員の任命がある。会社の登記書にはその項目に最低1人の名を記載しなければならないが、英語で「Authorized Director」と訳せても日本には相当する役職がなく、当のタイ語でも文で表現されているだけで名称はない。
日本本社も全権を行使するサイン権といわれると、駐在員に任せて良いのか? と戸惑ってしまうようだ。タイ居住者に限定されないが事あるごとにサインが必要なので、日本在住者だと不便だ。また、サインすること自体が「労働・就労」とみなされ、労働許可証の所持が原則。やはりそのときの駐在者支社長を任命しておくのが妥当だろう。
ちなみに労働許可証は、タイ現法で就労する者だけが取得していれば良いわけではない。例えば出張者だ。会議出席は「営業」とみなされないが、一度現場に出てしまうと営業もしくは就労とみなされ、出張であっても就労ビザと労働許可証を必要とする 。
日系企業でも大手になればなるほど気を付けているようで、出張者は会議室から出ないといった行動をしっかりと守っている。一昨年のタイ大洪水のとき、多くの日本人出張者が来タイして復興支援に携わった。タイ政府から特例が出て出張者でも現場での作業が可能となったが、申請せずに来タイし入国管理局のお咎めを受けた日本人もいたようだ。
肝心なのは会計事務
売り上げ優先、利益優先はどの業種も変わらない。会社設立後はいち早い稼働が求められるが、ここで気を付けたいのが会計事務。会社設立時、遅くとも稼働前には経理体制を整えておきたい。取り敢えずはエクセルで、という会社は決して少なくなく、実際にエクセルで処理できる額かも知れない。しかし、システムへの移行はきっかけが掴みにくく、どうにも処理できないという事態までエクセルを使い続けることになる。
そもそもエクセルというのは使いこなせているようで、決してそうではない。間違って入力してもエラーを発見できず、入れたはずの計算式が入っていなくても気づかない。使い続ければその分だけ間違いは肥大化、気づいたときには数字が……、というのは決して大げさな例ではない。
エクセルに間違いはなかったとしても、見よう見まねの会計処理が後に問題を引き起こす場合がある。例えば、工場の建設代金をそれぞれの費用に分けず、一括で処理してしまう例を見かける。後に備品を取り替える際、その備品の額が分からずに予算を立てられない、減価償却の途中であれば除却もできない、といった事態に陥る。タイ大洪水で被災した工場が、被害額を求められて計算できなかった実例がある。浸水が全体でなく部分的だったのだが、個々の資産額を把握していなかったようだ。
会計事務所に丸投げの会社も良く見かける。どの会計事務所も「領収書を渡すだけで全部処理してくれる」わけでない。渡した書類の数字はしっかり付けてくれるかも知れないが、それが会計処理の品質とは一致しない。前述のような建設代金も、適切にアドバイスできる会計事務所がどれほどあるだろうか。仮に決算書に間違いがあって国税局から指摘を受けたとしても、責任を負うのは自社だ。
事業化調査、会社設立、稼働と、信頼できるコンサル会社・会計事務所を見つけてしっかりとした体制を整えるのは初期であり、決して「事業が軌道に乗ってから」ではない。
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