日産『ジューク』の販売が好調だ。某ライバル社のエンジニアから「どうしてですかね?」と問われて、ボクが答えたのは「それだけ世の中に欲求不満がたまっているということ」。エコだ、実用だ、と建前ばかりがまかり通る風潮に、ジュークのデザインが風穴をあけた。
このデザインをひとことで評せば、「やりたい放題」。まるでボンネットにヘッドランプがあるような顔付き、クーペ的なコンパクト・キャビン、大きく張り出した前後のフェンダー。そこには「好き嫌いがあってもいい」という、作者たちの姿勢が滲み出ている。ウケ狙いではない大胆不敵さ。昨今のカーデザインが忘れていたものだ。
共感してくれる人を裏切らないのも、ジュークのデザインの美点。ボディサイズからすれば室内は広いほうではないし、ベルトラインが高いから開放感にも欠ける。でも、それは外観を見ればわかることだ。ジュークのファンがこのクルマに求めるのは、おそらくは「日常のワクワク感」。いつもと同じ景色が、ジュークに乗るとちょっと違って見える。大胆不敵なデザインが、乗る人の気分を解放する。
ただ、それにしては運転感覚がいささか真面目すぎるのが、あえて重箱のスミをつつけば気になるところ。
クーペ的なキャビンと張り出したフェンダーからキビキビとした操縦性を期待すると、ウーン、なんだか違う。とくに高速道路では、意外にもゆったりと落ち着いた乗り味。それはそれで望ましい性能ではあるけれど、デザインに抱いたワクワク感がだんだん薄れるのだよ。まぁ、そこは、いずれ追加される直噴ターボ仕様で解決される……と期待を残すところかもしれないけどね。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★★★
千葉匠│デザインジャーナリスト
1954年東京生まれ。千葉大学で工業デザインを専攻。商用車メーカーのデザイナー、カーデザイン専門誌の編集部を経て88年からフリーランスのデザインジャーナリスト。COTY選考委員、Auto Color Award 審査委員長、東海大学非常勤講師、AJAJ理事。