【デトロイト現地レポ】「ここでは“正社員切り”が常態化している」…元部品メーカー営業O.H.氏

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【デトロイト現地レポ】「ここでは“正社員切り”が常態化している」…元部品メーカー営業O.H.氏
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デトロイトは“死んだ”か

アメリカ自動車産業の凋落とデトロイトの荒廃を端的に示した写真をよく見かける。“GMの本社ビルと共に写る高級住宅の廃墟”という構図だ。

この写真がいまのデトロイトのすべてを象徴しているのだろうか? 本当にデトロイトは死んだのか?---私たちの取材はこの疑問から始まった。

あまり知られていないが、デトロイト市の郊外にはいかにもベッドタウンという住宅地が広がる。夏は涼しく過ごしやすく最高の季節で、ミシガン湖畔も美しい。日本人も多く住みやすい町だ。ビッグ3“だけ”の町と思われがちだが、この地には日系メーカーも開発・営業拠点を置き、世界中の部品メーカーが進出している。自動車業界にとってデトロイトはいまでも最重要都市。しかし、そのホストはあくまでもGM、フォード、クライスラーの3社だ。世界視点で見ればいまや“デトロイト3”なのかもしれないが、デトロイトおよびその周辺地区では“ビッグ3”の歴史と影響力はいまもって強大なのだ。

◆「秋にデトロイトへ戻ってきたら雰囲気が一変していた」

デトロイトおよびその都市圏には約8000人の日本人が住んでいる。その多くは自動車産業に携わっている人とその家族だ。

デトロイト郊外に住むO.H.さんは今年で41歳。東京の大学を卒業後、日本の部品メーカーに勤め、デトロイトの営業所へ家族と共に赴任。3年ほど前に日本への異動を命ぜられると、デトロイトに残りたいという奥さんの希望もあって米系の部品メーカーに転職し、主に日本メーカー向けのセールスを担当していた。サブプライム問題による米国景気の減速が報じられてはいたが、業務そのものは2008年の夏までは比較的順調だったという。異変が起きたのは、リーマンショック後だ。

「わたしは08年9月に、仕事と遅い夏休みを兼ねて家族と共に日本に1か月あまり滞在していました。しかし、10月にデトロイトへ帰ると以前に比べて街の雰囲気が妙に違うことに気づいたのです。道を走るクルマも少ないし、空き家も増えていました。オフィスでは、同僚の机がすでにいくつかなくなっていました。自分ももしかしたら……、という不安はありましたね」。

Oさんが日本からデトロイトに戻った数日後、会社から解雇を通告されたという。「日本での再就職も考えましたが、私くらいの年齢になると日本での中途採用は米国以上に厳しいし、収入面でも不安がありました」。数年前に購入した住宅のローンが残っており、デトロイトに残りたいという家族の希望が決め手となって、現在も求職中だ。いまは、これまでの貯蓄と失業手当(約360ドル/週)で暮らしている。

「日本では“派遣切り”が話題になっていますが、米国の場合は派遣や期間労働者が少ないので、“正社員切り”が常態化しています。工場閉鎖の類のニュースも日常茶飯事です。私が勤めていた部品メーカーも取引の大部分をビッグ3が占めていたため直撃を受けました。ビッグ3の危機が報じられるずいぶん前、最初の波はまず部品メーカーに来たのです」。

◆銀行の態度が一変

「この前もある欧州系部品メーカーの採用面接に出向きました。採用担当の言うところでは、1名採用の枠でしたが面接に来たのは10数人いたそうです。日英バイリンガルの営業職応募でしたから、おそらく多くはデトロイト在住の日本人でしょうね」。

部品メーカーがトヨタなど日系メーカーへの営業強化にデトロイト在住の日本人を採用していることは“ビッグ3離れ”を象徴するエピソードではあるが、依然としてデトロイトを営業の拠点と位置づけている証拠でもある。「デトロイト郊外には西部と北部にサプライヤが集まっています。日系は比較的西が多いですね。やはり本国に少しでも近い距離がいいのでしょうか」。冗談めかしてOさんは言う。

先頃発表された1月の米国自動車販売台数は、前年同月比で37.1%と大幅に落ち込んだ。2009年の販売規模は2008年比で400万台減の1200万台という予測が出ているが、この数字よりもさらに下ブレする可能性も指摘されている。デトロイトで自動車産業に携わる人々は、この状況をどう見ているのか。

「もちろん、ビッグ3の経営トップの判断ミスや多額のベネフィットを得ていながらこの危機でも妥協しないUAW(全米自動車労働組合)の態度は非難の対象になっています」。
とくにマスメディアを中心としたUAW批判はここ日本でも聞き及んでいるところだ。

◆救済融資はされたが…

しかし、Oさんは続けて言う。「金融業と製造業は違うという議論をしているようですが、ウォール街の投資銀行こそが、この自動車不況の張本人と確信している人も私の周りには数多くいます。自動車業界は彼らのおかげでとんだとばっちりをうけたものだという印象です」。

「金融バブルのときは信用力の低い人にもどんどんクレジットカードを発行し、ローンも容易に通しました。一転して今、銀行はお金を貸さなくなってしまいました。米国には個人の信用力を示す“クレジットスコア”というものがあるのですが、以前はこのスコアが低くても貸し付けていたのに、融資基準が大幅に上がり、いまでは多くの人が自動車ローンを組むことができなくなったと聞きます。新車が売れていない最大の理由は、信用不安による貸し渋りが大きいと言われています。アメリカでは、ローンでのクルマ購入が大多数を占めますから、米国の自動車販売がここまで落ち込むのは、結果として当然のことと言えるかも知れません。ビッグ3の危機は金融の問題なのです」。

年末から年始にかけて、米国政府は多額の債務を抱えるGMおよびクライスラーの金融子会社への救済融資を発表した。さらに民主党のオバマ政権が誕生し、自動車産業の保護姿勢を明確にした。これを受けてゼロ金利ローンなどの積極的な販売支援策を改めて打ち出したが、販売台数は上向く兆しを見せない。

取材後、Oさんのもとに先日面接を受けた部品メーカーから採用の通知が届いたという。「失業の身からようやく解放されるということで私自身もちろん嬉しいですし、ホッとしてはいます。ただ、同じ境遇の人がたくさんいると思うと、少し複雑な気持ちですが…」。

《北島友和》

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