ドイツ・シュトゥットガルトのメルセデスベンツ・ミュージアムに、昭和天皇の御料車が収蔵されているのは有名だが、昨年完成した新ミュージアムには、もう1台、日本と縁がある車両が展示されている。ヨーロッパで普及しているメルセデスのバン、『スプリンター』を改造した歯科往診車である。
ベースとなった「スプリンター312D」は、1995年から2000年まで生産されたモデルで、エンジンは5気筒2874ccディーゼル122馬力。最高速度は150km/だった。
歯科往診車は長崎県佐世保市の歯科医院が1999年から2004年まで使用したもので、レントゲンを含む治療機器一式が搭載されている。椅子は車椅子の機能も兼ねる。展示ブースに設置された解説用モニターでは、診療中の様子が上映されている。
とくに歯科医師がおらず、高齢化の進む佐世保市の島、黒島を巡回して、好評を博したという。館内のオーディオガイドによれば、「規定変更により(この車での)治療は停止された」と、経緯が解説されている。
展示されているのは、順路に従って7つあるコーナーのうち、ラストに近い第6室。「世界を動かす--グローバルとインディヴィデュアル」と名付けられたコーナーだ。隣には、アーノルド・シュワルツネッガーがカリフォルニア州知事に就任前に愛用していた『SL』が展示されている。
メルセデスの歯科往診車は、さもすれば歴史の重みに気圧されてしまいがちなメルセデス・ミュージアムのなかで、なにやらホッとさせる1台である。また、日本市場が闇雲にメルセデスの高級モデルばかりを買っているだけではないことを示す、よいアピールともなるだろう。
いっぽう、医院名にちなんだナンバープレートの読み方は、恐らくドイツ人館員も知らない、日本人だけのお楽しみである。