言葉のわからない国にいるとき、一番心配となるのが「もしも…」の緊急事態だ。事故や盗難など、数々の災難はあるだろうが、ワールドカップの試合中に起こりうる災難の最たるものがフーリガンによる暴動だろう。言葉のわからない街でそんな緊急事態に巻き込まれたらどうするか。
ここ最近、メディアでも警察によるフーリガン鎮圧訓練の模様をニュースなどで繰り返し放映している。日本の場合、まずは「暴動は止めなさい」と呼びかけることから始まるが、韓国でのフーリガン鎮圧は基本的に説得なしで、ただちに実力行使がなされると考えるべきだ。日々、何かしらのデモが起き、その度に騒乱状態となる韓国では、鎮圧専門の部隊が常に待機しており、手段も過激の一言。
それでも実際にはたいした混乱が起きないのもまた事実なのだ。最大の理由は鎮圧する側も、される側も「慣れている」ということに尽きる。韓国の男性には兵役義務があり、どんなに遅くとも30歳までには軍隊経験を一度はしている。もちろん武器類の扱いにも慣れているし、適切な防御や撤退の方法も学んでいるため、それら知識を100%活用すれば重大なケガを負うことなく生還できる。ここ数年、韓国軍の訓練も“戦場からの生還”を主眼に置いているのでその傾向はさらに強まった。
逆の言い方をすれば、「戦いに慣れているから容赦はしない」ということでもある。説得の前に催涙弾が飛んでくることは珍しくないし、街中で催涙弾を使ったぐらいではニュースのネタにすらならない国だ。サッカー場で暴動が起きれば待機している鎮圧部隊がフーリガンに、それも瞬時に襲いかかるだろう。それでも収まらなければ、完全武装の特別警察隊(特警、いわゆるSWAT)が投入されることになるが、そこまでの事態にはならないはずだ。
では催涙弾が飛び交う中、どのように退避すればいいのかという疑問が出てくるが、自分が運悪く暴動の真っ只中に位置してしまった場合には、雰囲気がまずくなる前にそこを離れることだ。逃げ遅れた場合、催涙弾から流出する煙を吸わないよう、姿勢を低くして顔をハンカチなどで覆う処置をする。「立ち上がったら自分が的になる」ということは頭の片隅に置いておくべきだ。冗談でも誇張でもなく、鎮圧部隊に「情け」や「容赦」という言葉は存在しない。
「郷に入れば郷に従え」とはよく言うが、周囲の人たちの様子を見ることで危険度を測ろう。街中でこうした暴動に遭遇した場合にもヤジ馬根性を出す前に、そこから離れる勇気を身につけよう。好奇心が自分の首を絞める事態にならないように。