ディーラーにおけるDX/GXの取り組みの重要性と事例…リブ・コンサルティング 西口恒一郎氏[インタビュー]

ディーラーにおけるDX/GXの取り組みの重要性と事例…リブ・コンサルティング 西口恒一郎氏[インタビュー]
  • ディーラーにおけるDX/GXの取り組みの重要性と事例…リブ・コンサルティング 西口恒一郎氏[インタビュー]

カーボンニュートラルの進展により、国内の自動車販売業界も大きな変革期を迎えている。生産性向上のためのDXや新たな事業開発は急務であり、すでに取り組みを始めたカーディーラーもある。その具体的な事例について、リブ・コンサルティング モビリティインダストリーグループ ディレクターの西口恒一郎氏に聞いた。

西口氏は、7月8日に開催されるカーディーラー業界におけるDXトレンド~シェアリングプラットフォームを活用した事業作りのユースケースに迫る~に登壇し、このテーマで詳説する予定だ。

年間1200台の上積みを実現

---:まず、御社のカーディーラー向けのコンサルティングの内容について教えてください。

西口恒一郎氏(以下敬称略):はい。内容としてはまず経営全般のコンサルティング、そして販売台数を伸ばしていくためのマーケティングやセールス、そして組織人事に対するコンサルティング、大きく分けてこの3つの領域になります。

これらの実績が累計で約200社、プロジェクト数で累計6500あります。現状でアクティブに運営しているプロジェクトはおよそ常時100プロジェクトで、なかでも多いのは、やはり業績や売り上げを伸ばしていくもので、全体のおよそ半分になります。

---:顧客は国内メーカーの新車ディーラーが中心なのですか?

西口:およそ6割が国産車の新車ディーラーです。それ以外には輸入車や、ガソリンスタンドを運営している会社ですね。そのほか、中古車や未使用車専門の事業者さんもいます。

実際のプロジェクトとしては、売り上げ向上に関するコンサルティング、集客やブランディングに関する支援、あるいは顧客満足度の改善などが中心で、そのほか人材育成や、制度設計に関わるコンサルティングなどが多いですね。

---:具体的な事例を挙げていただけますか?

西口:例えば私が担当した事例では、中国地方の地場の販売店で、営業現場での販売力の向上に取り組みました。1人あたりの月間販売台数がおよそ5台だったところ、取り組み後は6台に増やすことができました。この会社の営業人員は100人ほどでしたので、月販で100台、年間で1200台の支援効果がありました。

---:どのように販売台数を伸ばしたのですか。

西口:商談の型を我々が持っていまして、例えば新規の顧客に対して、最初の相談から提案してクロージングまで、一連の流れをすべて型化していきます。例えばこういうポイントで提案をしていくだとか、クロージングの押さえるべきポイントをすべてルール化し、それを研修やワークショップの中で落とし込みました。その上で半年ほどロールプレイをしながら、どれくらいポイントを実行できているかを採点し、商談のスキルアップをしていくというものです。

EVを買うときに電力プランの見直しをアドバイス

---:最近は御社への相談内容が変わってきたそうですね。

西口:そうですね。新たにディーラーの長期ビジョンや新規事業の支援をしたり、またM&Aやその後のPMI(Post Merger Integration:M&A後の統合プロセス)など、新しいテーマでの相談が増えています。

そのほかにも、カーボンニュートラルの流れの中で、販売店にとっての脱炭素化をどう実現していくのかという取り組みが増えてきています。

---: DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)へのニーズが現場から出てきているのですか。

西口:そうですね。これらの領域に対しては新しい取り組みに積極的なカーディーラーが動き始めています。例えばトヨタ系の販売店では、カーディーラーが参加しているオンデマンド交通(※チョイソコ)や、あるいはメーカーの枠組みとは関係なく新しい新規事業を行っていたり、EV販売とセットで太陽光パネルを販売する事例もあります。

---:EVとセットでソーラーパネルの販売は、確かにニーズがありそうですね。

西口:そうですね。我々も仕事柄、覆面調査をよくやるのですが、ここ1か月ほどいろいろなカーディーラーに行き、EVの商談を受けるという調査をしました。

その時に、EVの補助金や、買った後に電力プランの見直しが必要かの問い合わせ、あるいは買う時に太陽光パネルを一緒に買ったほうが、月々のランニングコストは抑えられるのかという質問をあえて投げかけてみました。

そうするとそこには対応の違いがあって、「うちでは扱っていないので専門業者に質問してください」と投げるディーラーと、「こういうセットプランがあります」と紹介してくれる数少ないディーラーと、二極化していました。

EVを買う際に、充電設備や、災害対策としての蓄電池などを検討する顧客も一定数いるはずですので、EVとエネルギーをセットで提案できるディーラーのほうが、EV販売においては選ばれるディーラーだと我々は思っています。

そういう商材を扱い慣れているディーラーは、EVを買うならうち、というブランドが築かれていくと思います。そこにビジネスチャンスがあると思っています。

---:早いところはもうやっているのですね。

西口:そうですね。普段暮らしている時は、電力プランの見直しなどあまり考えませんよね。なので、EVに切り替えるタイミングで顧客と接点が持てるのはすごく大事だと思います。

当社でもトヨタユナイテッド静岡と一緒にEV向けの電力ソリューションを企画して、ユーザーに対して少しずつ提案を始めています。

ディーラーにおけるDX/GXの現状

---:カーディーラーにおけるDXとは、具体的にはどのようなものですか?

西口:例えば、店舗ごとの売り上げ実績やサービスの入庫実績を、事務スタッフが手作業で集計をしていたり、それをファックスで本部に送って、それを本部の人が手作業で集計しているところもありますね。

今どきは、現場のスタッフがシステムに入力したら、それがリアルタイムにデータベースに反映され、経営層がすぐにチェックできる、というのは当たり前ですが、そういう仕組みがないところもあります。

とは言え、なんでもかんでもいきなりデジタル化というわけには行かないので、当社の場合、その販売店に1週間くらい張り付きをして、実際のオペレーションがどう回っているのか、どこの部分のデジタル化が遅れているのかの診断からまず入ります。

---:現場を1週間見て、どこを変えれば効果的かを判断するということですか。

西口:その通りです。5日間張り付きをするのですが、2日間は店舗に行き、現場でどういう運営をしているのかを把握します。その後3日間は本部に入り、営業企画や販売部、サービス部や総務部など、各部門にヒアリングをします。そしてその後に経営層にヒアリングをして、どの領域を改善していきたいか、あるいは新規事業を作っていきたいのかをヒアリングしながら、何に着手するかを決めます。

---:現場の状況と、経営者の想いをDXに反映させるのですね。

西口:そうですね。それからGXのほうは、今後は販売店がEVを売っていくフェイズになってくるので、EVを売る時に選ばれるディーラーになるために、エネルギー方面のソリューションを持っておく必要があります。

---:ディーラーにおけるGXとして、どんな商材があるのでしょうか。

西口:まずは電力プランの提案です。今使っている電力プランからEV用の電力プランに切り替えたほうが、コストメリットが出ることが多いです。これは個人でも、法人にも当てはまります。

例えば、法人に営業用車両を納めるのと同時に、電気料金は使用量のピーク値で決まるので、何台ものEVを一斉に充電してしまうと、電気料金が一気に跳ね上がってしまいますので、きちんとエネルギーマネージメントシステムを組んで、使用電力をうまく分散させながら充電する必要があります。

本来は、ディーラーがそういうアドバイスを法人に対してすべきなのですが、今のところ、電力の話は電力会社、車の話はディーラーというように別々になっています。ここをセットにできると、電力のほうのビジネスも取れるので、事業機会としては大きいのです。

---:そもそもEVの消費電力はケタ違いに大きいことをきちんと説明せずに売ったら、クレームにもなりかねませんね。

西口:そうなんです。法人に対して車を売る場合は、売った後のアフターサポートをきちんとできるかどうかが、ディーラーが選ばれる要素になっています。今後は車がEVに変わると、エネルギーの使い方まで含めたサポートができるかどうかで、法人営業での成否や成果が変わってくると思います。

---:電力プランの切り替え以外にも、GXの商材はありそうですね。

西口:そうですね。他にはEVの普通充電器と電気工事、太陽光発電システム、蓄電池システム、それをセットにしたV2H(ヴィークルトゥーホーム)機器などがあります。

---:EVの販売が、エネルギービジネスのひとつのきっかけになりそうですね。

西口:その通りです。電力プランやエネルギーソリューションを導入することによって、新しい事業収益を作っていくだけではなく、EVをより販売しやすくするためにエネルギーソリューションを持つという会社もあると思います。

あるディーラーでは、そのディーラー専用の電力プランを作ろうとしているところもあります。うちでEVを買ってもらえれば、当社専用のお得な電力プランに契約できますよ、というものです。

このように、これまでは車両の購入や維持管理に関するニーズに対して、地域のディーラーが応えてきましたが、これからはEVを起点として、電力プランや太陽光パネル、そこから発展してEVと住宅を組み合わせたスマートホームなどの相談窓口としての在り方も考えられます。

もちろん、これらのGXを全部やるということではなく、自分達が取り組みやすいところから順番に、ユーザーとの接点をより強化していくためにこういう機能を持っていくべきだ、という順番で考えていけばいいのではないでしょうか。

西口氏が登壇する無料のオンラインセミナー カーディーラー業界におけるDXトレンド~シェアリングプラットフォームを活用した事業作りのユースケースに迫る~は7月8日開催。
《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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