自動車業界では水素というとFCVや水素燃焼エンジンに注目が集まるが、水素は石油・石炭のような天然資源ではない。今のところ水素を車両の燃料として使うのは効率的ではなく、LCAでの脱炭素にもなりにくい。水素は、脱化石燃料のためのエネルギー政策の一つとして見るべきだ。
国内では川崎重工業、岩谷産業、関西電力他が水素サプライチェーン構築に向けて取り組みを行っている。8月31日から9月2日まで開催された「スマートエネルギーWeek秋」では、2日目の基調講演で川崎重工業と関西電力によるセミナーが開催された。その内容から我が国の水素エネルギーへの取り組みの現状をまとめたい。
◆エネルギー政策に組み込まれた水素
川崎重工業は大型船舶、電車、産業プラント、ボイラー、電力インフラなどを手掛ける総合重工だ。これらをつなぐエコシステムに次世代の脱炭素エネルギーとしての水素に注目し、サプライチェーン構築を行っている(川崎重工業 水素戦略本部 山本滋氏)。
日本は2020年、当時の菅総理が「2050年カーボンニュートラルを目指す」と宣言している。2030年には温室効果ガスの削減を2013年比で46%削減という目標も掲げた。これをうけ2021年10月の第6次エネルギー基本計画では、2030年の電源構成に水素・アンモニアによる発電を1%とすることが明記された。それまでの基本計画では水素・アンモニア発電についての記載はなく、新たに追加されたものだ。
エネルギーや発電事業にかかわる企業にとっては、政府による自然エネルギーや原子力、化石燃料以外の新しいターゲットが掲げられたことになる。川崎重工業は、「つくる」「はこぶ」「ためる」「つかう」という水素チェーンを構築することで、カーボンニュートラルへの貢献、持続可能な重工業を目指している。同社には、「水素を作って、運んで、貯めて、使うまでのすべてのフェーズにおける製品や技術がある」(山本氏)からだ。
山本氏は「水素はこれまで産業ガスとしてでしか認知されていなかったが、いまはエネルギーとして政策に明記された。これは大きい」という。