本連載では、CASE(コネクティッド化、自動運転化、シェアリング/サービス化、電動化)へと舵を切った自動車業界が抱える課題とその先に待ち構える未来について、自動車産業領域を担当するアクセンチュアのスペシャリストたちが語る。
前回は、ハードウエアを主体とする車体開発プロセスに固執するあまり、ソフトウエアの可能性をいかしきれず、競争力を失いはじめている日本メーカーが抱える課題について触れた。今回は、高まるソフトウエアの開発需要に適応し、世界をリードしはじめた欧州系メーカーの取り組みを例に、いまだ足踏みを続ける日本メーカーがとるべき方策について論を展開する。
顧客ニーズの多様化とソフトウエア開発工数の爆発
「自動車づくりが大きく変わろうとしている」
時代の節目節目で繰り返し使われてきた表現だ。だが、100年に1度起こるかどうかのパラダイムシフトの直前にあるいまほど、この言葉がふさわしい時代はないかも知れない。
第二次世界大戦後、急速に発展したエレクトロニクス技術によって自動車は性能を劇的に高めた。走行性能や安全性、排気ガスのクリーン化のいずれも機械制御にとって変わった電気制御技術の向上によって成し遂げられたものといっても過言ではない。
一般ドライバーにとって身近なところでは、計器のデジタル化、パワーステアリング、パワーウィンドウ、エアコン、電動ドアミラー、車内サウンドシステム、エアバッグ、GPS搭載ナビなども、すべてエレクトロニクス技術とソフトウエア技術がもたらした恩恵といえる。
さらに90年代に入って実用化されたハイブリッド車(HV)、これから本格的な普及期に入ることが期待される電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)も、エレクトロニクス技術とソフトウエア技術の進歩によって支えられている部分が大きい。
すでに自動車に搭載されるECU(電子制御ユニット)の数は、すでに1台あたり30を超え、40台に迫ろうとする勢いで伸びている。高級車にいたっては100を超えるともいわれている。
今後10年以内に一般道を走行するであろう、レベル5に分類される完全自動運転車にいたっては、人が行っていた状況判断と運転操作のすべてを自動車が担うようになる。
自動車が制御すべき機器やシステム、センサー類の数は急増するのは既定路線だ。
多くの読者は、巨大な資本を持ち、大勢の優秀なエンジニアを抱える完成車メーカーなら、難なくソフトウエア技術をその手中におさめ、この変化を乗り越えようとしていると思うかも知れない。
しかし、その認識は正しくもあり、間違いでもある。
海外の主要メーカーのなかにはすでに変化を予測し手を打っている企業は確かにある。だが一部の先進企業に限られているのが実情だ。
とくに少子高齢化によるエンジニア不足が慢性化している日本メーカーの状況は深刻さを増している。
既存の生産スケジュールを守ることに手一杯で、ソフトウエアオリエンテッドな開発スタイルに移行するための準備に充分なリソースを割ける企業は、ごく一部の限られた完成車メーカーのみ。販売台数ランキングの下位に甘んじている企業は現場力に頼りながら、なんとかやりくりしている。