【ベンガルール通信 その3】 イノベーションの「震源地」で感じること

日曜早朝のグラウンドにはクリケットに興じる人々が集う。停められる限り、どこでも駐車場。
  • 日曜早朝のグラウンドにはクリケットに興じる人々が集う。停められる限り、どこでも駐車場。

南インドよりナマスカーラ!

2021年3月初旬、住宅・都市問題相が発表した “Ease of Living Index 2020” によると、当地ベンガルールがインドで最も「住みやすい」都市なのだという。次点は同じく高原に位置する西部のプネ (Pune, Maharastra州)、第三位は目下建設中の新幹線の起点となる北西部のアーメダバード (Ahmedabad, Gujarat州) という結果だ。このランキング、メディアでは専ら “Most Liveable City” と表現されているし、人口百万人以上と未満とで別のランキングが設けられている。未だ人口の大半が農村部で生活を営むインドにおいて、就業や就学の機会を求めて、また食や医療といったQOLを求めて、都市に出ようとする者がどこへ向かうべきか、ガイドとなる指標なのだろう。

「80km走れば言語も食も習俗も何もかもが異なる」と言われるインド、単一言語・単一文化の日本にこの環境を紹介する際は「ミニ・グローバル」と表現している。地球並みのダイバーシティを備えた国内の各地から人が集まってくるベンガルールは、「シリコンバレーの先を行く」と言われて世界の英知も集うから、引き続きイノベーションのEpicentre (震源地) として機能しそうだ。数多くのグローバル大手がR&D拠点を置き、業界・分野を問わないスタートアップのハブとして、イノベーションの「エコシステム」が発達してきた背景には、この地が現代インドの大いなる混沌・混乱・矛盾を抱えていることもある。「最先端」でなくても十分に画期的であったり、「洗練」とは無縁の世界にいる住民が隣にいるからこその課題や実需や現実解が「イノベーション」の起点になっている。

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5年ほど前の2016年初頭、中央政府が “100 Smart City Challenge” (100のスマートシティを作ろうキャンペーン) の第一次候補・20都市が選出された、という報道を見た。その数の多さに興味を引かれて記事を開いたが、この100や20という数字だけに驚くのは浅はかだった。「ミニ・グローバル」において何かが始まる際、「言い出しっぺ」が示す大雑把なコンセプトに賛同する者が具体提案を持ち寄るのが通例だが、国家の一大事業も正しくこれと同じ構図で始まっていた。

20都市がどんな理由でパイロットに選ばれたのかその基準を確かめようとすると、応募の基本要件だったか、「スマートシティが備えるべき基礎インフラ」という10項目が先に目に入った。

1. adequate water supply...充分な水の供給

2. assured electricity supply...確実な電力供給

3. sanitation, including solid waste management...ごみ処理等の衛生管理

4. efficient urban mobility and public transport...都市交通・公共交通の整備

5. affordable housing, especially for the poor...低所得者向け住宅の整備

6. robust IT connectivity and digitalization...堅牢なITネットワークとデジタル活用

7. good governance, especially e-Governance and citizen participation...デジタル政府と市民参画による「良い」行政

8. sustainable environment...環境への配慮

9. safety and security of citizens particularly women, children and the elderly...女性・子ども・高齢者の安全確保

10. health and education...医療と教育の整備

この内、日本人が「スマートシティ」と聞いて思い浮かべるのは「ITネットワークの整備とデジタル活用」の項と、せいぜい「デジタル政府」の部分くらいではないか。「備えるべき基礎インフラ」と言われればその通りなのだが、「スマート」か否かを問う以前の基本機能に過ぎるし、どれもザックリ大括りの要件に過ぎる。

そして、提案が求められる「スマートシティ」には、「地域・自治体の発展段階、変革に向けた意欲、活用可能な資源、住民の望む姿を踏まえて、基礎インフラ、一定の生活の質の確保、清潔で安定した生活環境と都市全域に渡るスマートな政策」が求められていた。むしろこれらの要件を外して都市計画をする方が難しい。。。

だが、そう感じるのは恵まれた日本人ゆえ、なのかもしれない。これらの「基礎インフラ」すら、中央政府が大々的なキャンペーンを掲げて補助金をぶら下げなければ整備が進まないとすれば、全てあって当たり前の日本とは前提が違い過ぎる。提案する側の都市は、経済性試算を含む5か年計画をまとめ、州内での予備選考を勝ち抜いた上で初めて、中央政府主導の本イニシアチブの審査対象になるとのことだった。2021年3月現在、当該政府サイトを開くと100都市それぞれの提案とプロジェクトの進捗が統一的にまとめて公開されている。

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さて、話をベンガルールに戻す。前回までに、空港へのアクセス事情や「ポストコロナのニューノーマル」として利用が拡大した二輪のシェアードサービスを紹介した。

《大和 倫之》

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