トヨタとレクサスは、いかにしてデザイン改革を成し遂げたのか?…福市得雄氏が講演

会社の役員やクライアントの信頼を勝ち取る

意外だと思うものを、リスクを冒して提案

オリジナリティ、チャレンジ、可視化

言葉の解釈は十人十色、形容詞を使う危険

講演する福市得雄氏
  • 講演する福市得雄氏
  • トヨタが「グローバル・コア」と位置づけたキーンルック
  • トヨタ・カローラスポーツ
  • ディテールはさまざまな視覚トリックをを活用してデザインされる
  • ディテールはさまざまな視覚トリックをを活用してデザインされる
  • レクサスES新型のスピンドル・グリル
  • スピンドル・グリルは少しずつ表現を強めてきた
  • 開口部がせり出したフェンダーに挟まれることで、スピンドル・グリルができあがる

会社の役員やクライアントの信頼を勝ち取る

これまで8年にわたって、トヨタのデザイン改革やレクサスのブランド確立を牽引してきた福市得雄氏が「デザインのやりかた」を公開。そんな講演がおこなわれた。

この講演は、10月12日に虎ノ門ヒルズで開催された「design surf seminar」のプログラムのひとつ。同イベントは、デザイン関連に特化した商品やサービスを扱うTooが開催したもので、さまざまな業種で活躍するキーパーソンがデザインに関わる講演やトークを展開した。

現在、トヨタとレクサスのエグゼクティブ・アドバイザーを務める福市氏は「デザインには企(わけ)があり、スタイルには意味がある」のタイトルで講演。会場は自動車メーカーやサプライヤー、電機メーカー等の現役デザイナーや、デザイン学生を中心にした聴衆で満席となった。
会場は満員となった
福市氏は冒頭「これから話すのは、常日頃デザイナーに問いかけている言葉や、会社トップにデザインを信頼してもらうための言葉」と告げた。内容は、大きく分けると前半が「会社の役員やクライアントの信頼を勝ち取るためのこと」、後半は「デザイナーとしての心得」となる。

意外だと思うものを、リスクを冒して提案

前半で興味深かったのは、「意外性が必要」というくだりだ。「お客さんは“期待以上のもの”を期待している。だからデザインを決めるときは、ちょっと意外だと思うものをリスクテイクして採用しなければいけない」という。これだけならマーケティング論によく見られる内容かもしれないが、福市氏は「いま、現在のリスクがないように決めることは、2年後に最大のリスクになる」と先を読む必要性を説き、デザイン審査にやってきた役員たちの意識を変えていったとか。

またそれまでのトヨタ車は「類似感」はあったが、ネガティブなイメージで語られることもあった、と振り返る。「統一性を持たせようとはしていたが、ポジティブなニュアンスの“統一感”ではなかった」という。そこで、精悍で強いイメージの「キーンルック」を採用し、統一感として認識されるようにしたという。「ブランド全体で漠然と似せるだけではダメ。意思を持って統一させたことが伝わらなければいけない」とのことだ。
トヨタが「グローバル・コア」と位置づけたキーンルック
ただし、ただ統一させればいいというものではない。これは続いて紹介した「市場ごとにブランド表現を変える」ということから理解できる。まだトヨタの市場シェアが小さい欧州市場では、「グローバル・コア」と位置づけたキーンルックをラインナップ全体に採用し、ブランドが埋没しないようにしたという。

しかし市場の半分近くのシェアを握る日本では、意識的にフロントエンドのデザインを作り分け。「カテゴリーごとに顔つきを変え、バラエティ豊かにして日本特有の状況に配慮した」とのこと。その中間の北米市場や中国市場ではキーンルックを核としながら、いくつかの車種では専用のフロントエンドも導入していると説明した。統一イメージをコントロールすることが重要というわけだ。
ディテールはさまざまな視覚トリックをを活用してデザインされる
このほか、デザイン審査ではディテールの演出の意図を理解してもらうことも必要で、錯視を活用していることを説明したという。バンパー端のフォグランプ等はワイドに感じさせるため、バンパー左右を「面取り」するのはオーバーハングを短く見せるため、タイヤを大きく見せるためにホイールアーチの処理を決めている、といったことなどだ。これらは「デザイナーにとっては当たり前のことであっても、デザインを評価する役員たちはデザインのプロではない。そうした人たちがデザインをわかるために必要なこと」と語る。

オリジナリティ、チャレンジ、可視化

講演の後半は、デザイナーに向けた内容。まず「他ブランドを追従せずオリジナリティを追求する、時流を変える気持ちで常に新しい形にチャレンジする、機能性能の可視化をする」という3つの信念を説いた。
開口部がせり出したフェンダーに挟まれることで、スピンドル・グリルができあがる
機能の可視化という部分では、レクサスの「スピンドルグリル」の意図を紹介。奇をてらった造形ではなく、自動車の進化の過程を踏まえたものだと説明した。「馬車からの進化の過程で、フェンダーとエンジンルームが一体化していった。その正面にグリル開口部を設けるとスピンドル形状になる」という。「けっして最初にスピンドルグリルの形があったわけではなくて、前端に開口部を素直に設けたら必然的にこうなった」とのことだ。

言葉の解釈は十人十色、形容詞を使う危険

また「形容詞の羅列の危うさ」を警鐘として鳴らす。「デザイナーはいろいろな言葉を使うが、形容詞が多すぎると何を言ってるのかわからない。でも聞いていると、なんとなく心地よくなる」という。しかし言葉の解釈は十人十色で、たとえば「エレガント」や「ハイテク」「先進的」いう言葉ひとつとっても「世代によってイメージするものは異なる。市場によっても異なる。誰に向けての製品を作るのか、デザインするのか。これを定めないと大変なことになる」と説く。

「言葉のイメージは人それぞれ。性別や年齢、国籍ごとにイメージの違いがある。デザイナーはスタイリングのコンセプトを立てる際、自分のイメージだけに頼らないで、ターゲットユーザーの気持ちを理解した上で考えることが重要だ」というのは自動車に限らず、あらゆるプロダクトデザイナーに通用する言葉だろう。

《古庄 速人》

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