宇宙航空研究開発機構(JAXA)は5月21日、御茶ノ水ソラシティの東京事務所にて、新開発の「イプシロンロケット」の打上げに関する記者説明会を開催。
プロダクトマネージャの森田康弘氏によるイプシロンロケットの開発状況や打上げに関する詳細な解説が行われた。世界のロケットの常識を変えるその革新的な「モバイル管制」や高性能・低コストについてはこの後の記事に譲るとして、まずはその基本スペックなどを紹介する。
イプシロンロケットは高性能と低コストの両立をターゲットとした小型の固体ロケットだ。固体ロケットとは固体燃料を用いたロケットのことをいい、H-IIA/Bのような液体燃料方式のエンジンと比べてシンプルな機構が特徴である。基本形態は3段式、液体ロケット並みの軌道投入精度に対応するために小型液体推進系(PBS)をさらに搭載した4段式の「オプション形態」も選べる設計だ。
同ロケットの開発はIHIが中心となって行われている。小惑星探査機「はやぶさ」などの科学衛星6機を打ち上げた実績を持ち、2006年にコストの問題から引退した「M-V(ミューファイブ)ロケット」の後継機というわけだ。
また、H-IIA/Bロケットといえば三菱重工のイメージが強いが、IHIも開発には関わっており、そこで開発された技術や得られたノウハウもイプシロンロケットの開発に投入された。H-IIA/Bロケットとの技術基盤、機器・部品の共通化が行われ、コストダウンが図られているのである。
スペックは、全長が24.4m、直径(代表径)が2.6m、全備質量が91t、打上げ能力は基本形態が地球周回低軌道(LEO:高度350~1400km)で1200kg、オプション形態がLEOで700kg、太陽同期軌道(北極と南極を結ぶ極軌道の1種で、地表に当たる太陽光線の角度(入射角)が常に一定で観測に適している)で450kgだ。
第1段ロケットにはIHIが開発したH-IIA/Bで活用されている固体ロケットブースタ「SRB-A3」が転用されており、推力は真空中で2271kN。第2段にはM-Vの第3段の改良型「M-34c」が活用されており、371.5kN。第3段には、同じくM-Vのキックモータ(第4段ロケット的なエンジン)の改良型「KM-V2b」が活用されており、99.8kN。そして第4段といえるPBSは0.4kNとなっている。M-34cとKM-V2bは単に推力を増やしたというだけでなく、素材なども改良されており、軽量化も図られた。
同ロケットの試験機(初号機)の「ε-1」は、PBSを搭載したオプション形態で、8月22日13時30分から14時30分の間に打ち上げられる予定だ。世界初のコンセプトで開発された惑星分光観測衛星「SPRINT-A」を軌道に投入するミッションとなり、M-Vと同じ内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられる(M型ロケット発射装置はイプシロンロケット用に改修された)。天候の問題やトラブルによる延期の場合は、翌23日から9月末までの予備期間が設けられている。