ハイブリッド時代のハイオクガソリン開発とは…昭和シェル石油 中央研究所 研究員に聞く

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中央研究所 第二研究チーム チームマネージャ 岡部伸宏氏
  • 中央研究所 第二研究チーム チームマネージャ 岡部伸宏氏
  • 直噴エンジンの内部構造
  • 中央研究所
  • シェルピューラによる効果
  • トヨタ 1NZ-FEエンジンの吸気バルブ(新品)
  • 燃焼の繰り返しでカーボンが付着したトヨタ 1NZ-FEエンジンの吸気バルブ
  • およそ4000kmをシェルピューラで走行後、バルブ回りの付着物はほぼ取れた
  • インジェクター付近にカーボンが付着すると正常な燃焼がおこなわれなくなる

1980年代後半から1990年代にかけたパワー競争の時代、高オクタン価・高燃焼の無鉛ハイオクガソリンが一世を風靡した。90年代末には直噴エンジンやハイブリッド化、アイドリングストップなど、より緻密な制御が必要とされるエンジンが登場。動力性能だけでなく環境性能も重視され、ハイオクガソリンに求められる性能も変化した。

エネオス『ヴィーゴ』やコスモ石油『スーパーマグナム』、モービル『F-1』(現『Synergy F1』)、出光興産の『スーパーゼアス』、そして昭和シェル石油『シェルピューラ』など各社から新世代のハイオクガソリンが登場。今回、環境時代のハイオクガソリンを代表する銘柄のひとつであるシェルピューラの開発現場を取材した。私たちにとって知っているようで知らない、ガソリンの研究開発について、昭和シェル石油中央研究所 第二研究チーム チームマネージャ 岡部伸宏氏に話を聞いた。

◆時代に最適なガソリンとは

----:昭和シェル石油というと、往年の『フォーミュラシェル スーパーX』といった燃焼がよいハイオクガソリンのイメージが強いのですが、「シェルピューラ」はどんなハイオクガソリンなのか教えていただけますか。

岡部:フォーミュラシェル スーパーXは1987年に発売され、無鉛ハイオクガソリンブームの草分け的存在のガソリンでした。シェルのハイオクは、高性能エンジンのパフォーマンスを引き出すだけでなく、エンジン内部の清浄剤の効果も謳った、高付加価値商品でした。これは、市場で非常に評価され、ガソリン全体の売上のうち、ハイオクガソリンの比率が20%を越えました。。

シェルピューラは、その流れを汲むものでもありますが、従来製品との違いは、とくにエンジン内部の清浄機能を強化した点にあります。

----:なぜ、そのようなハイオクガソリンを開発したのですか。

岡部:そもそも、当社の商品開発は、「時代ごとに最適なガソリン」を提供することを目標に行っています。具体的にはエンジンの進化に合わせてガソリンも進化しなければならないと思っています。1999年にシェルピューラの開発を始めたのですが、市場調査などをしてみて、いくつかの変化を感じました。まず、近年の消費動向が「いいもの買う」から「欲しいものを買う」というように変化してきています。ユーザーの声を分析してみると、車をなるべく大切に乗りたい、エンジンの状態を維持したい、といった機能が求められていることがわかりました。これが、ハイオクガソリンの清浄機能を強化した製品というコンセプトの背景になりました。

◆エンジンの高性能化はガソリンの高性能化も引き起こした

----:高燃焼だけではなくクリーン性能もガソリンに求められるようになった、と。

岡部:じつは、2000年代のエンジンは高度に精密制御を行うようになり、混合比、点火タイミングなどかなり最適化され、パワーアップや燃焼効率の改善にガソリンができることの領域が狭まってきています。その反面、ガソリンの環境性能や経済性が重要になってきているのもシェルピューラの開発の背景にはあります。

----:エンジンの清浄作用というと、ガソリンタンクに入れる添加剤がありますが、それとどこが違うのですか。

岡部:エンジン内部のカーボンを除去するという点では、原理は添加剤と同じといえます。ガソリンタンクに入れる添加剤によっては、高濃度の添加剤を使用するので効果は高いのですが、即効性の高さによる副作用が生じる可能性があります。強力な作用で、たまったカーボンが固まりのままエンジン内部に落ちることがあります。これは、バルブやバルブシート、シリンダーなどを傷つける可能性があります。その結果、排気ガスが増加する可能性があります。オーバーホールするのでなければ、シェルピューラのような清浄効果のあるガソリンそのもので、すこしずつきれいにしていったほうがエンジンにとってはよいのです。この結果、シェルピューラは従来のハイオクガソリンに比べ、エンジン内部をきれいにすることにより排気ガス中の炭化水素の量を減らすことができます。

----:どれくらい使うと清浄効果が期待できるのでしょう。

岡部:内部的なテストでは4000kmほど走行した状態で、バルブに付着していた汚れがかなり除去できることが検証できています。汚れが落ち始めるという点では、すぐに働きはじめますが、連続給油で2000~3000kmくらいの走行でかなり汚れが落ちるはずです。ただカーボンの除去は外からはわかりません。そのため、清浄効果のアピールは難しいのですが、エンジン性能の低下を防ぐことができるので、エンジン内部のクリーンアップするようなオーバーホールの重整備をしない一般のユーザーの方にとっては大きなメリットがあります。

◆レギュラー仕様でも清浄作用は有効

----:ハイオク仕様でない車やレギュラーガソリンと混ぜて使っても問題はありませんか。

岡部。はい。レギュラーガソリン仕様の車での使用、レギュラーガソリンや他のハイオクガソリンが残っている状態で給油してかまいません。ハイオクガソリンとしての効果や清浄機能は、多少影響しますが、効果がなくなるということはありません。

最近のエンジンは、ノックセンサーによる点火時期の制御を行うものが増えているので、そのような車ならレギュラーガソリン仕様でも、ある程度ハイオクガソリンの性能を活かしてくれます。ハイオク仕様でないから入れても無駄、ということはありません。清浄機能については、レギュラー仕様のエンジンでも十分有効だと思います。

----:ハイブリッドカーやエコカーにも有効ということですか。

岡部:一般論として、高速走行の多いエンジンはカーボンがたまりにくいと言われています。近所の買い物利用など、いわゆる「ちょい乗り」はエンジン内部が汚れやすいと思ってください。エンジンが温まる前に停止したり、ストップアンドゴーを繰り返すと、止まっている間にエンジン内部のガソリンが蒸し焼きのような状態になり、カーボンがつきやすくなります。

つまり、モーター走行時にエンジンの止まるハイブリットカー、信号待ちでエンジンを停止するアイドリングストップ車は、カーボンの溜まりやすいエンジンともいえます。シェルピューラのようなガソリンを使ってほしいエンジンではあります。また、直噴エンジンなどにもお勧めです。燃料を噴射するノズルをきれいにしてくれるので、エンジン性能を保ってくれます。

◆ガソリン添加剤との違いは

----:シェルピューラはシェルグループの海外の研究所と共同開発したと聞きました。グループの中で技術交換は盛んなのでしょうか。

岡部:各種燃料の品質向上は、グローバルで取り組み続けている課題でもあります。シェルピューラの開発では、海外の研究所の清浄剤のノウハウを提供してもらいました。シェルでは、各国のユーザーに合わせた差別化燃料の開発が活発に行われています。しかし、燃料に対する日本の規格や規制は世界一といっていいほど厳しいものなので、海外の技術をいかに日本の規格に合わせるかに腐心しました。

例えば、ガソリンに関するJIS規格に「未洗浄ガム分」に関する規定があります。未洗浄ガム分とは、ガソリンを蒸発させた際に残った物質のことですが、JISではガソリン100mlに対して未洗浄ガム分は20mg以下と規定しています。むやみに清浄剤を添加すると、この基準を上回ってしまいます。基準値を守りながら十分な清浄効果を発揮できるよう、品質の管理を徹底しています。

----:グループ以外の、たとえば自動車メーカーと連携して新しいエンジンや燃料を開発することはありますか。

岡部:市販する商品レベルで、そのような連携や共同開発はあまりありませんが、HCCI(予混合圧縮自着火)エンジンなど、新しい技術や基礎研究では、さまざまなメーカーと技術交流などを行っています。

----:シェルピューラは、シェルのスタンドであれば給油可能なのでしょうか。

岡部:現在、シェルピューラは品質を保証するため地域限定の販売となっています。シェルピューラの取り扱いがある全国のガソリンスタンドは、昭和シェル石油のウェブサイトから検索することができます。

《中尾真二》

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