BMWは7月26日、BMW GROUP Tokyo Bay(東京都江東区)において「カーボンニュートラリティのキーテクノロジー~水素の利活用推進~」と題するシンポジウムを開催。第1部のBMWやトヨタの開発者、専門家らによる講演後、第2部では専門家4名がパネルディスカッションを実施した。
参加したのは、第1部で講演したBMWグループから水素燃料電池テクノロジー・プロジェクト本部長 ユルゲン・グルドナー氏、BMWと燃料電池の開発で協業関係にあるトヨタ自動車から水素ファクトリー プレジデント 山形光正氏、水素クリエーター 木村達三郎氏の3名。それに『iX5 Hydrogen』のプロジェクト・マネージャーを務めたロバート・ハラス氏を加えた4名。モデレーターは同じく国際モータージャーナリストの清水和夫氏が務めた。

◆FC普及には大型車でエネルギーの好循環を作ることが先決
まず清水氏は、iX5 Hydrogenが実験車両として開発されたことを受け、ハラス氏に「トヨタの『MIRAI(ミライ)』と同じFCスタックを使いながらどうやってBMWらしさを発揮したのか」と質問。ハラス氏は「最終的にそのクルマがどのような目的で使われ、どのようなパワーを出したいのかについて考えた。高電圧な170kWのバッテリのアシストを加えることで合計出力は401PSを実現しており、これがBMWらしい走りをもたらしている。また軽量化も図っており、それによってBMWらしさを体験できるようになったと思う」と回答した。

これについて清水氏は「MIRAIと同じFCスタックを使いながら速くなったマジックは、バッテリーがターボチャージャーみたいな働きをすることにある。もちろんこのバッテリーに外部から充電することはできない。要は300kWのリアモーターが発電機になり、今までになかった新しいシステムとして活用できるようになった」と解説した。
清水氏はこれに関連してトヨタの山形氏に対し「同じFCスタックを使うiX5 Hydrogenが登場したことで、トヨタはFCEVをどう差別化していくのか」と質問。
山形氏は「FCEVは長い距離を安心して走れるところがBEVにはない特徴だと思う。また、自動運転などドライビングアシストなどの装備によって必要となる電気量が増えてくると、ここでも水素がエネルギーを貯めることを得意とする特長が活きてくる。基本的にはFCEVはBEVよりも高い負荷がかかるとような状態、たとえば大きなクルマを遠くまで走らせたり、救急車やゴミ収集車、消防車のようにポンプを稼働といった使われ方において、たくさんのエネルギーを貯めることができる水素の能力が活きてくる」と回答した。

清水氏は「山形さんの話を聞いて感じたのが、エネルギーの大量消費が始まらないと普及が進まないということ。MIRAIを作ったものの、乗用車レベルでは水素の大量消費は難しい。まずは大型車での利用を始めてエネルギーの大量生産、大量消費にシフトし、そこに乗用車が入ってくると良い循環になっていくのではないか」と説明した。

木村氏には水素の生成方法について質問。木村氏によると「水素はいろんな生成方法がある中でライフサイクルアセスメントで考えることが必要で、それはどうやったらCO2を出さずに作れるかということだ。当然ながら風力や太陽光で発電して水を電気分解して作ればいいが、他には原子力という選択肢もあるし、化石燃料にしても改質してCO2を排出させず地中深く埋めてしまうことが可能なら意味がある」と説明した。
◆いかにエネルギーをキレイに作れるかが重要
一方で木村氏は「いずれにしてもコストがキーになってくるが、大量生産すればコストが下がるというわけでもない。いずれは水電解装置もFCスタックと同様に高性能化・小型化が進み、各家庭で屋根に設置した太陽光パネルからの電気で水素を作ってクルマに供給することも2050年頃には夢の世界ではなくなる。つまり、いかにエネルギーをきれいに作るかがポイントになると思っている」と述べた。

清水氏は「理想的には再生可能エネルギー由来のグリーン水素を作ることだが、そのプロセスとして化石燃料由来のブルー水素も効率よく作っていくことになると思う。皆さんはどう考えているか」と話し、グルドナー氏にその質問を向けた。