「総合物流施策大綱」の閣議決定
2021年6月15日、政府は2025年度までの物流施策の指針を定めた「総合物流施策大綱」を閣議決定した。その最たる特徴は、今後の物流が目指すべき方向性として、「物流DXの推進」を第一に掲げたことだ。
改めて説明するまでもなく、DX(Digital Transformation)はDigitizationでもDigitalizationでもない。単なるデジタル化ではなく、デジタル技術を活用したビジネスモデルの革新を意味する。つまり、「総合物流施策大綱」で「物流DXの推進」を掲げたということは、政府として物流産業のビジネスモデルを革新させるとの指針を示したことに他ならない。
物流は古くから存在する産業である。海上交易も物流の1つと考えるのであれば、紀元前から存在するといっても差し支えないはずだ。日本では、律令制の時代以降、飛脚の整備が進んだ。江戸時代には、飛脚の商業化に加えて、廻船業者が登場するなど、現代にまでつながる物流産業の土台が築かれた。
だが、今日に至るまで、物流産業の本質が労働集約的であることには変わりがない。より多くの荷物を運ぶためには、船やトラックの数だけではなく、船員やドライバーの人数も増やすことが必要だ。より遠くに運ぶためには、その分だけ船員やドライバーの働く時間を長くしなければならない。物流の総量は、その作業に携わる人の数と時間の総和に比例するのである。
翻って、物流ビジネスでは、今、かつての産業革命やIT革命に匹敵する革新的進化が起きようとしている。IoT、AI、ロボティクスといった次世代デジタルテクノロジーの進展と実用の拡大は、物流の脱労働集約を促進するはずだ。そうなれば、物流クライシスの主因であった人手不足は解消される。物流への人の介在が減少すれば、新型コロナウイルス感染症の拡大抑制にも有効だ。諸外国に先駆けて「経済の血脈」と称される物流のDXを成し遂げられれば、日本の国際競争力も大いに向上するだろう。
その実現への要諦は、「省人化」と「標準化」による「物流の装置産業化」にある。