CASE革命とスマートシティ、次世代モビリティの市場展望(後編)

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移動サービスと自動車産業の未来

かのピータードラッカー氏が「自動車産業は、20世紀の産業中の産業である」と表現したように、自動車産業は100年以上の歴史があり、その中で数多くの企業が活躍してきた。日本においても例外ではなく、550万人の労働人口を博す自動車産業は、日本の中心的産業であることに疑いの余地はない。

その自動車産業は、自動車メーカーを頂点とした複数の産業ピラミッドで構成されている。大手自動車メーカー(完成車メーカー)は、それぞれ独立したサプライチェーンおよびバリューチェーンを構築しており、かつて日系メーカーは「系列」と呼ばれるコミュニティを形成していた。

自動車メーカーは、車両モデル毎に個々の搭載部品について供給メーカーを決定し、共同開発をするケースもあるが、基本的に部位毎に部品メーカーに開発製造を託してきた。その結果、自動車メーカーは信頼できる部品メーカーの囲い込みをする、すなわち系列企業でクローズしたバリューチェーンを構築することが一般的であった。裏を返せば、部品メーカーにとっては、特定自動車メーカーとの関係構築によってのみ、企業経営が安定するということであり、必ずしも自由経済下での公平な取引であるとは言えない状況であったといえよう。

消費者の自動車に求める要件が一様であった時代には、このようなビジネスモデルによる「大量生産」「大量消費」が適応した。しかし、昨今、自動車に対する消費者の要件が指向の多様化によって、大きく変化しようとしている。自動車先進国と新興国では自動車に求める要件は異なる。その地域の既存交通システムの充実度によっても違いがある。また、所得レベルによっても違いはあるし、都市部への人口集中による影響も大きい。各国の政策の違いにより、自動車に求められる要件も違ってくる。例えば、排ガス規制や電動化の推進などである。さらには、自動車の最終消費者が、「個人」からモビリティサービスを提供する「法人」に変化してくるとどうなるだろうか。個人所有を前提とした自動車と、タクシー専用車のような自動車では、使用方法は異なるし稼働率にも大きな差が出るだろう、必然的に要件にも差異が生じることになる。

携帯電話がスマートフォンに変化した時がそうであったように、商品に求められる要件が大きく変化するタイミングで、その産業を動かしているキープレーヤーの入れ替えが起こる。消費者の指向の変化を察知し、商品に求められる要件を再認識し、多種多様の新しい技術・製品を世に送り出してきた「新勢力」がある。例えば、インターネットでありスマホなどの新しい商品を世の中に送り出してきた、グーグル、アップルである。あるいは既存のビジネスモデルを破壊し、新たな価値創造に特化したアマゾンのような企業もその一例かもしれない。

自動車メーカーにとってみれば、2020年代が自動車に求められる要件が大きく変化する時代と言える。コネクテッド、電動化、自動運転など技術革新に加えて、自動車の利用形態の変化、すなわち「自動車を所有する」時代から、「移動サービスを利用する」時代に変わろうとしているのである。CASEは、まさに100年に一度の大変革期ということなのである。


《宮尾 健》

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