道具としての小さな車に「仕込む」未来

道具としての小さな車に「仕込む」未来
  • 道具としての小さな車に「仕込む」未来

日本には「仕込む」という文化がある。辞書によると、人に教えてしっかりと身につけさせる、しつける、という使い方や、知識・技術などを自分のものとするという意味で使われる。また、商品を仕入れるとか、料理の下ごしらえをする、料理を作ってたくわえておくということ。必要な物を用意しておくということなどの意味がある。

そして、工夫して中に納め入れて作る、という意味もある。座頭市の仕込み杖のそれである。また、酒・味噌・醤油などをつくるために、原料をまぜて桶などの入れ物に詰めるという意味もある。

最近、軽自動車のキャンピングカーやキッチンカーが注目されている。新型コロナ感染拡大で、「三密」を避けての楽しみとして、屋外でのレジャーや食事が注目されており、その為の車両として一番低コストで手に入れられることが人気の理由と思われる。

勿論、経済性や効率が大きな理由ではあるが、私は「仕込む」という文化がもう一つの理由ではないかと考えている。

限られたスペースにいろいろな機能を整理して詰め込むことは日本人の得意技である。弁当や重箱、携帯用の文房具やお裁縫道具など枚挙にいとまがない。そして、そもそも「仕込むこと」や「仕込まれたもの」が好きなのである。

キャンピングカーやキッチンカーを作る時にも、その得意技が発揮される。別荘やレストランを制限ある小さな空間に押し込めようとしても無理がある。その価値を煮詰めて、本当に必要なものだけを整理し詰め込むことで、限られた機能ではあるが、使えるものとなる。そして大事なのは、機能以上の価値が生まれることである。

工夫して様々な機能やモノを「納める」。「収める」のではなく「納める」のだ。とことん限られたスペースゆえに、単にモノを入れるのではなく、あるべきモノを入れるのである。そうすることで発酵熟成するがごとく、新しい価値が生まれる。

そして仕込みの醍醐味は、使わない時と使う時、ビフォーアフターの変化のギャップが大きいほど面白い。洋の東西を問わず「前後の変化」としての「変身」はエンターテイメントである。なのでビフォーは小さくて地味でパッとしない方がギャップの演出効果が期待できる。その意味でも軽自動車、中でも軽トラック(以下“軽トラ”)は素性が良い。

軽トラを、自家用車として見ている人は少ないだろう。使われているところとしても農業、林業、漁業などの第一次産業や工事関連用途が多く、「仕事の車」という認識されているといえる。地方に行くと軽トラが活躍しているところを目にする機会が多い。特に一次産業に従事される方の多い地方では、その傾向が強いように思われる。地方では少子高齢化と過疎化が進んでおり、結果として軽トラックが地方での高齢者の足としても活躍している。そうした「仕事の車」「高齢者の足」が、楽しみのための車に「変身」することは、そのギャップが故、より大きなエンターテイメントとなる。

《榎本 信之》

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