【FIRST EXPO 2014】3億円、2年で人工衛星を開発「ほどよし」衛星5年の成果を報告

宇宙 テクノロジー
超小型衛星「ほどよし衛星」シリーズを手掛けた東京大学大学院工学系研究科 中須賀真一教授
  • 超小型衛星「ほどよし衛星」シリーズを手掛けた東京大学大学院工学系研究科 中須賀真一教授
  • FIRSTプログラム30件の最先端研究者の一人に採択された
  • ほどよし1号衛星は、今年中の打ち上げを予定
  • ほどよし3号・4号がほぼ同時に完成
  • ほどよし4号に搭載される予定のイオンエンジン「MIPS」。超小型衛星搭載用としては世界初。

2014年2月28日から3月1日まで、日本の最先端研究開発プログラム『FIRST』の成果を発表する「FIRST EXPO 2014」が東京・新宿で開催された。宇宙分野から、超小型衛星「ほどよし衛星」研究開発プロジェクトが採択された東京大学 中須賀真一教授が研究成果の発表を行った。

中須賀真一教授は、2003年に東京大学・東京工業大学共同で10センチ角の超小型衛星キューブサットを世界に先駆けて打ち上げ、運用して以来日本の超小型衛星開発を牽引してきた。内閣府・総合科学技術会議が世界のトップを目指す最先端研究課題30を採択し、およそ5年間での成果を目指すFIRSTの課題に超小型衛星の実用化「ほどよしプロジェクト」が採択され、2010年から2014年まで4機の「ほどよし衛星」開発を手掛けた。

ほどよし衛星は、3億円以下の低コスト、2年以内の短期間で重量50キログラム級の高水準の機能を持つ衛星開発を目指す。従来行われてきた、1000キログラム以上の高機能の人工衛星は、開発費に数100億円、開発期間は10年以上かかることもある。コストと開発期間を負担できる衛星の発注者は、政府系機関などに限られてしまう。近年は「スモールサット」と呼ばれる、重量数百キロ級で低コストの衛星開発で、英SSTL社を始めとした企業が商用衛星の開発で成果を上げているが、この分野ではイギリス、オランダ、カナダなどの企業との激しい競争にさらされる。ほどよしプロジェクトではさらに小型の「マイクロサット」と呼ばれる100キログラムまでの超小型衛星を目標としている。この分野では「日本は戦える」と中須賀教授は強調する。

ほどよし衛星では、例えば地球観測衛星ではマイクロサットで可能な2.5メートルの分解能をめざし、"ほどよい"信頼性と性能の目標のもとに宇宙への敷居をさげる。また、超小型衛星の部品を海外から買っていたのでは開発期間に遅れが出るため、日本で調達できるサプライチェーン構築を牽引した。超小型衛星向けの高分解能(分解能5メートル、2.5メートルまで拡張可能)やイオンエンジンなどを開発している。

およそ5年のFirstプロジェクト中、4機のほどよし衛星が完成した。「ほどよし1号」は分解能6.8メートルの地球観測衛星で2014年中にドニエプルロケットでの打ち上げを待つ状態だ。「ほどよし2号」は、宇宙科学を希望する世界各国に呼び掛け、国際公募により台湾、ハンガリー、チェコ、スウェーデンなどから7機の観測機器を搭載する。東北大学と共同で衛星を開発し、H-IIAロケットでの打ち上げを予定している。「ほどよし3号」「ほどよし4号」では、2台の衛星で衛星バス(本体)を共通化する取り組みを行った。高速通信や高分解能カメラ、過酸化水素を推進剤とするエンジン、イオンエンジンをそれぞれ搭載するなど、共通バスの上に異なるミッション機器を搭載し、ほぼ同時進行で2機の衛星を短期間で開発している。衛星に10センチ角の空きスペースを設け、人工衛星の"レンタルスペース"を宇宙実験や宇宙ビジネスに貸し出すホステッドペイロードにも取り組む。

こうした超小型衛星に向いているミッションとして、中須賀教授は低コストの衛星を同じ軌道に打ち上げて連携し、高頻度に地球上の観測任意の場所を撮影するコンステレーション運用などを挙げた。また、河川、湖沼に設置された水位センサーの水位データなど、重要ではあるものの災害時には人が近づけないセンサーのデータを、上空を通る衛星が次々と収集し、地上に送信する「ストア&フォワード」機能を提案したところ、世界25カ国から問い合わせがあったという。

パネルディスカッションで中須賀教授は、人工衛星には総合工学的色彩があります。技術を上げるだけではだめで、打ち上げロケット調達、(試験場などの)インフラ整備、市場開拓、海外協力など総合的に一斉にやらなくてはならない。これらが全てできたのは、FIRSTで用意された研究資金が大きかったから。超小型衛星に関する国際シンポジウムを何度も開催することができて、この分野における日本の存在感を示せたと思う」とプログラムの5年間を振り返った。

FIRSTの研究資金が、2009年当初の2700億円から総額1500億円(うち500億円は若手・女性研究者支援の『NEXT』に)となったことについては、
「研究資金が減ったことで、衛星の開発機数が減った、打ち上げロケットの選択もコスト重視になるなど、一定の制限を受けた。とはいえ、(研究資金が基金制のため)単年度で年度末処理しなくてよいのは、大変よかった。日本の無駄遣いの源泉だと思っていた年度末処理がないのはとてもよいこと。さらにいうなら、衛星は開発して終わりではなく、打ち上げ後には運用の段階がある。プログラム終了後に、衛星の運用に使えればよかったと思う」とFIRST制度が研究者にとって有用であるとの認識を示した。

《秋山 文野》

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