新年を目前に、警視庁の指揮車両からひときわ大きなアナウンスが、日本語と英語で繰り返された。「スクランブル交差点、ハチ公前広場でのカウントダウンセレモニーはありません」。
渋谷駅前交差点にカウントダウンのために人々が集まるようになったのは、ここ数年のことだ。その数は年々多くなっている。日本人だけではない。北米、ヨーロッパ、アジアから多彩な国籍の人々が、覆面や着ぐるみ、コスプレと様々な姿でやってくる。片手にビールや酒瓶を抱える若者も少なくない。警察のアナウンスの通り、何があるというわけではないが、集まって新年を待つのだ。
本来であれば、新年を迎える渋谷駅前交差点は、いつもより静かなはずだ。ビルの壁に設置された3台の街頭大型ビジョンは消されている。いつもは深夜2時まで営業しているはずのQ-FRONTにあるTSUTAYA渋谷店もシャッターを降ろしている。
それなのに、1月1日0時にむかって人々の熱気は興奮は高まり、立ち去ろうとはしない人々が押し出されるように車道へとあふれる。奇声を上げて交差点の中に飛びだそうとする人もいる。その喧噪の中にタクシーが突っ込み、横断する人々に車両が見る間に覆い尽くされる。まるで10数年ぶりの球団の優勝を祝うかのような興奮状態だ。
見知らぬ人々がシャンパンシャワーやハイタッチで新年を祝う風景は、渋谷らしい風物詩と言いたいところだが、渋谷駅前交差点は何かが起きそうなまさに一触即発の危うい雰囲気を漂わせている。