ドコモ ドライブネット+ドライブネットクレイドル 開発者インタビュー

 「しゃべってコンシェルエンジン」の導入で、ナビがエージェントに一歩近づいた…NTTドコモ・パイオニア 開発者に聞く

(左から)
パイオニア カーエレクトロニクス事業統括部 カー事業戦略部
スマート・ビジョン事業開発室 岩堀耕史氏
NTTドコモ ユビキタスサービス部 ITSサービス ITSサービス担当課長 門井喜仁氏
パイオニア カーエレクトロニクス事業統括部 カー技術部 小川喬人氏

 
  • ドコモ ドライブネット + ドライブネットクレイドル 評論家インプレッション
  • ドコモ ドライブネット + ドライブネットクレイドル動画レビュー
  • ドライブネット公式サイト
ドコモ ドライブネットを立ち上げたタブレットをドライブネットクレイドル 02に装着。右奥に見えるのは別体のセンサーユニット
 
通信機能を活用したさまざまなリアルタイムコンテンツを利用できるのがドコモ ドライブネットの大きな特徴だ
ドコモ ドライブネットの起動画面

NTTドコモとパイオニア、異業種コラボのきっかけ

NTTドコモがドライバー向けのリアルタイム情報提供サービスとして「ドコモ ドライブネット」を提供することになった経緯について、まずお聞かせいただけますか。

ドコモ門井氏:当社は車載分野において、テレマティクスモジュールなどの通信機器の企画に取り組んできました。コンシューマー向けにおいては、カーナビゲーションという部分でコラボレーション何かできないか、というところから検討し、まずはポータブルナビゲーション向けの通信サービスという形で2010年にスタートしたのがこの「ドコモ ドライブネット」というサービスです。

2011年の春には、ドコモ ドライブネットとしてスマートフォン向けナビゲーションアプリの提供を開始しました。

ドコモ門井氏:やはりここ2、3年で、スマートフォンの普及が急速に進んだことが大きいですね。スマートフォンをお使いになる方々に対して、カーナビゲーションとリアルタイムの情報提供を結びつけた付加価値を付けていくことで、お客様にメリットを提供でき、大きな市場が見込めるのではないか、というのが狙いとしてはありました。

 
スマートフォン向けに提供されてきた音声エージェントアプリ「しゃべってコンシェル」の音声意図解釈エンジンが車内での用途向けにチューニングされてドライブネットに搭載された
 
駐車場リアルタイムで提供される満空情報。アイコンの表示色で満車・混雑・空車が判別できる
 

ナビアプリの提供に際して、パイオニアとドコモが協業するに至ったきっかけは。

パイオニア岩堀氏:パイオニアは、カーナビの車載機を通してドライバーの皆様に新しい価値を提供するために、他社に先駆けて通信を用いたサービスに取り組み、渋滞情報やリアルタイムなエリア情報などを提供してきました。これらのサービスがもたらす価値を、より多くの皆様に提供できないかを検討する中で、本格的に普及してきたスマートフォンに着目しました。その中でも汎用性があるOSであり、プラットフォーム上でナビサービスを連携させることが可能なAndroidでなら、より多くの皆様に提供でき、さらに車載専用機では実現できない新たな価値までも提供できるのではないかと考え、ドコモ様と協議を重ね、協業させていただくことになった次第です。

パイオニア小川氏:開発側では、パイオニアの技術・ノウハウを盛り込んだスマートフォン向けのカーナビアプリを先行開発しておりましたので、ドコモ様との協業を検討する段から実物を見ていただきながら打合せを進められ、速やかに開発からサービスインにこぎつける事ができました。

パイオニアはハードウェアメーカーであり、カーナビなど車載機の販売が収益の中心ですが、汎用OSへのアプリ開発協力・提供という形態には議論は起こらなかったのでしょうか。

パイオニア岩堀氏:様々な議論はありましたが、最終的には販売の収益を大きく変えることはなく、共存できると考えています。なぜなら今までは車載専用機をお買い求めいただいたお客様に対してサービスを提供して市場を拡大してきましたが、車載専用機を買うほど車を利用されないお客様には価値を提供できていなかったからです。

 
ルート上の渋滞情報が変化すると、別のルートを推奨するアラート画面が立ち上がることも
 

そのようなお客様に、ナビゲーションを身近な存在として気軽に使っていただくには、様々なサービスが統合された端末上で動き、急速に拡大・保有率が高まっているスマートフォンを活用することが最適と考えました。幅広い生活シーンの一つとしてナビゲーションを融合させ、車から離れた他のサービスと連携させることで、従来のカーナビにはない新しい価値を実現でき、またより身近なナビゲーションとしてのポジションを獲得できるのではないかと考えています。

ドコモ門井氏:われわれは通信事業者ですので、様々なサービスと通信の連携を図ることで、生活に利便をもたらすという使命があります。いままでなかなか普及してこなかった車内での通信利用も、スマートフォンの登場によって一気に現実のものになりました。そうなると、クルマの中でいろんなサービスの可能性が見えてきますよね。

 
充実したスマートループ渋滞情報®を元にした探索をおこなうため、品質の高いルートを生成できる
 
(左から)
VICSが交通情報を提供する道路(約7万km)に比べておよそ5倍となる33万kmもの道路交通情報を利用できる
 

初心者でも安全に利用できる音声入力を

スマートフォン向け「ドコモ ドライブネット アプリ」は、センサー類を内蔵した「ドライブネットクレイドル」と併用することで本格カーナビ並の自車位置精度が実現できる点に大きな特長がありますが、クレイドルの企画はパイオニアから持ち込まれたのでしょうか。

パイオニア岩堀氏:車での移動は徒歩や自転車より高速ですし、道を間違えた際の復帰も場所によっては困難なので、カーナビには正しい現在地を表示できる能力が求められます。ドコモ様もパイオニアも、車での移動を支援するには位置精度の高さを重要なファクターとして考えておりましたので、これを解決する方法としてパイオニアからクレイドルの企画をドコモ様に提案し、共に製品化に向けて取り組むことになりました。

今回のバージョンアップで、音声操作機能が新たに「しゃべってコンシェル」のエンジンを利用したものを採用しているとのことですが。先ほど出た安全という面から、音声入力の機能アップは必然的に取り組むべき課題だったのでしょうか。

ドコモ門井氏:音声での入力は、使い勝手の面でも優れていますし、ナビを使い慣れてない方でも様々な機能を使うことが可能になります。特に「しゃべってコンシェル」は音声認識や意図解釈については非常に高い評価をいただいていました。それをうまく車内の世界に取り込めないか、というのがきっかけでした。ドライブネットへの導入に当たっては、サーバーのシステムをチューニングして車内利用に最適化しています。

 
ドライブネットクレイドル 02では、別体ユニットに車載用GPSレシーバー、ジャイロセンサー、加速度センサーを内蔵。正確な自車位置測位をアシストする。
 

パイオニアは車載ナビの分野で長年音声入力に取り組んでいますが、「しゃべってコンシェル」というクラウド上で提供される音声入力機能について、どのように見ていますか。

パイオニア岩堀氏:現在、車載機で提供されている音声認識の主は、ローカル内に収録されたデータの中から参照するため、「目的地」「自宅へ帰る」など、のコマンドを覚え、それを音声で入力するスタイルでした。一方、「しゃべってコンシェルエンジン」を活用した今回の音声操作は、クラウド上に膨大なデータを置き、そこから参照できるので、自由な発話でも、その意図を解釈することができます。その結果、ドライバーはコマンドを覚えることなく、自然な発話で目的とする情報を容易に得られるようになります。将来的には更に発展して、カーナビが使われるモノではなく、ドライブにおける頼れる存在になるのではないか、と考えています。

 
NTTドコモ ユビキタスサービス部 ITSサービス ITSサービス担当課長 門井喜仁氏
 

「しゃべってコンシェルエンジン」がナビの音声入力に変革をもたらす?

地図画面からマイク形状のアイコンをスライドするだけで入力のモードに入りますので、利用しやすさが工夫されていると感じます。

ドコモ門井氏:「ドコモ ドライブネット」では従来より音声操作機能を提供してきましたが、それを「しゃべってコンシェルエンジン」の音声入力に移し替えたという形です。ショートカットメニューからはこれまでと同様の音声検索も利用できます。

音声入力を「しゃべってコンシェル」だけに絞らなかった理由は。

パイオニア小川氏:「しゃべってコンシェルエンジン」の特徴は、意図解釈にあるので、自由な使い方が想定される地図画面上で利用できるようにしてますが、音声操作による名称検索は施設名称に限定しています。そのため、従来からあるフリーワード検索や周辺施設検索での音声入力も残すことにしました。

「しゃべってコンシェルエンジン」を利用した音声操作の導入にあたり、先ほど「サーバーのチューニングを車内利用に最適化した」とのことですが、具体的にはどのような部分を最適化したのでしょうか。

 
パイオニア カーエレクトロニクス事業統括部 カー事業戦略部 スマート・ビジョン事業開発室 岩堀耕史氏
 

パイオニア岩堀氏:ドライバーの発話によって抽出された情報をそのまま端末に表示し、複数の選択肢の中から選ぶ形にすると、操作回数や負担があまり減らないので、ドライブでの様々なシチュエーションを想定しながら、ある程度の情報の選別と操作の紐付けを自動化し、できるだけ情報のやりとりを少なくなるように工夫しました。

パイオニア小川氏:開発に当たっては、パイオニアが保有する過去のノウハウや、お客様の利用動向、車内におけるコンテンツ・機能等の利用シーン等を踏まえてご提案させていただき、協議しながら仕様等を決定していきました。その結果、メニューを選択したり、文字を入力したり、場所を探したりといった操作を極力減らすことができ、ナビゲーションの機能を違和感無く利用できるようになりました。

ドコモ門井氏:こうした認識精度を向上させるチューニングは定期的に行っています。サーバー側でそういった改善をできるところがクラウドのいいところですね。皆様にたくさん使っていただけるほど、「しゃべってコンシェル」と同様に認識精度は高まりますし、今後もどんどん良くなっていくはずです。

ドコモ ドライブネットの特長である、リアルタイム情報を加味した音声入力も利用できますね。

ドコモ門井氏:「空いている駐車場を探して」などでも、駐車場満空情報を表示することができます。

 
パイオニア カーエレクトロニクス事業統括部 カー技術部 小川喬人氏
 

ナビゲーションがエージェントに近づいた

音声入力は各社のナビゲーションが取り組んできましたが、普及という点ではもうひとつという印象が正直ありましたが、この「しゃべってコンシェル」のエンジンを活用した音声コントロールは車内での音声入力を一気に広めそうな気がします。

パイオニア岩堀氏:車向けにチューニングされた「しゃべってコンシェルエンジン」により、音声入力は目的地を探したり、操作をしたりするためのツールと言うより、自然な発話に応答してくれるエージェントのような存在に近づくのではないかと考えています。今後更なる成長を遂げて、ドライバーにとって「困ったから話しかけてみよう」という頼れる存在になり、様々なことを積極的に話しかけるスタイルを確立できれば、と考えています。

方や車載機やオーディオ機器を中心に開発・製造するメーカー、方や日本でもっとも加入者の多い通信キャリアと、カルチャーの異なる両社のコラボレーションでしたが、開発に際してお互いに受けた刺激はどのようなことがありましたか。

 
 

パイオニア岩堀氏:弊社の開発体制は今回の協業で大きく変わりつつあります。従来は、カーナビ車載機の新モデル発売に合わせて、搭載する全機能の開発スケジュールを合わせるというものだったのですが、スマートフォン向けナビアプリケーションの開発においては、良い機能ができたら、部分的でも直ぐに盛り込んで提供し、お客様の声を聞きながら更なる改善を検討し、新しい価値のあるサービスの追加を継続していく体制に変わってきています。

ドコモ門井氏:車内で情報機器を操作させることにおいて、ユーザーインタフェースに対するこだわりが非常に強いことを感じました。車載分野での長年の取り組みがあるからこそのノウハウや知見は我々としても大きな刺激を受けたと感じます。今後も「ドコモ ドライブネット」、そして音声入力機能は進化していきますので、多くの方々にお試しいただければと思います。

《聞き手/執筆:北島友和》

 
別体のセンサーユニットとはBluetoothで接続する
スマートフォン用の「ドライブネットクレイドル 01」に装着したドコモスマートフォン。ドコモ ドライブネットの機能はスマートフォンもタブレットも同一だ
自然な話し言葉でも、話者の意図を汲み取り、最適な提案を行えるのが他のカーナビアプリにはない最大の魅力だ
 
  • ドコモ ドライブネット + ドライブネットクレイドル 評論家インプレッション
  • ドコモ ドライブネット + ドライブネットクレイドル動画レビュー
  • ドライブネット公式サイト
 

ドコモ ドライブネット + ドライブネットクレイドル フォトギャラリー