

こうなってくると、320iの立つ瀬がなくなりかねないが出番はちゃんとある。ディーゼル・エンジンは、大きな爆発エネルギーに対応してどこもかしこも頑丈に設計されているだけに重くなってしまう。ガソリン・エンジンはその必要がないので、アクセルを踏み込んだときの吹き上がり感が軽快なのだ。高回転域の伸びもよく、アクセルを踏み続ければ2速からは6000rpmを超えるまで胸のすくような吹き上がりが楽しめる。
こうした特性をより際立たせているのが328iだ。最大トルクでは35.7kgmと320dにわずかに及ばない。ところが、中回転域からは立場が逆転する。320dも世の中のディーゼル・エンジンとしては高回転域を得意とし、なかでも8速スポーツATを採用するMスポーツならセレクターかパドル・シフトでマニュアル操作することにより5200rpmあたりまでは引っ張ることができる。
328iにとってその回転域は、山岳路などで常用可能となりアクセルを踏み続ければまだまだ刺激的な加速が続けられDレンジのままでも6700rpmまで引っ張ることができる。数値上の最高出力は245psを5000rpmで発揮することになっているが、実際にはその値を6500rpmまで維持するので引っ張りきるまでパワーの頭打ちも感じない。BMWがガソリン・エンジンで長年にわたって培ってきたスポーティでパワフルな加速感を心ゆくまで味わいつくしたい人に、328iは打ってつけのモデルといえる。

さて、AH3はどうだろうか。アクセルを踏み続ければ、Dレンジのままでも7000rpmから始まるレッドゾーンに一気に突入。7200rpmでシフトアップされ、刺激の度合いの強さはハイブリッドを組み合わせていないが同じエンジンを積む従来モデル(セダンとツーリング)の335iに勝る。なぜかといえば、モーターがエンジンをアシストするeBOOST=イーブースト状態となりパワフルなだけではなく回転の上昇に勢いがつくので吹き上がりの鋭さが実感できるからだ。エンジン音の迫力も際立っているので、AH3は335iの代役として3 シリーズでは唯一となる直列6気筒エンジン搭載モデルとしての価値を完ぺきに受け継いでいる。
それでいて、ハイブリッドらしさも実感できる。一定の速度を保つ場面では、エンジンが自動的に停止しモーターだけでゼロ・エミッション走行に移る機会がかなりある。その切り替えは気づかないほど自然でありスーッと音もなく走るだけに、AH3はBMWの未来を予感させる走りを先取りしたい人にオススメしたい。
ちなみに、AH3の燃費については走行用のリチウムイオン・バッテリーの充電量によっても異なり市街地で12km/リットルから15km/リットルといったところだ。320dも似たような燃費を市街地で記録するのは難しいことではない。しかも、320dが用いる軽油は他のモデルが用いるプレミアム・ガソリンよりもかなり割安なことを考えれば、燃費という意味では経済性とCO2の排出が少ないことによる環境負荷の小ささでは3 シリーズの中では圧倒的に優れている。このあたりに関心がある人によっては最適な選択となるに違いない。

見てきたように、クリーン・ディーゼル、そして直噴ガソリン・ターボ、さらにActiveHybridといったハードウェアのドラスティックな進化は、新型3 シリーズ最大のトピックである。だが、より効率的なドライブをサポートするソフトウェアの進歩、すなわち「ECO PROモード」の存在も見逃すことはできない。
1 シリーズで初めて搭載されたこのECO PROモードは、ドライビング・パフォーマンス・コントロールでモードを選択することで、ドライバーの運転に応じて、エンジンのレスポンスやシフト・タイミングを最適化。さらに、エアコンの制御もおこなうことで、ドライバーは我慢を強いられることなく好燃費がたたき出せるというわけだ。BMWによれば、最大20%まで燃料消費量を低減することが可能だという。
冒頭に触れた“よりパワーを。”と“よりクリーンに。”という、一見相反する目標を高度な次元で実現させるために、BMWが尽くす手だけには、限りがないように見える。セダンにツーリング、3種のパワー・トレイン、そしてxDriveまで、主要モデルが出そろった3 シリーズ。実に悩み甲斐のあるラインナップといえるが、ステアリングを握れば、どのモデルもそれぞれキャラクター性に富んでいることが実感できるはずだ。
BMW正規ディーラーでは、クリーン・ディーゼル、ハイブリッド、直噴ターボなど新世代のパワーを体感できる試乗キャンペーンが開催される模様だ。今回のインプレッションで解説した3つのパワーの特色を、ぜひとも読者自身の手でも体感していただきたい。
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