

BMWは、開発理念である「よりクリーンに、よりパワーを。BMW EfficientDynamics」に基づく最新モデルの投入攻勢をかけてきている。そもそも、この開発理念はBMWのブランドとしての約束である「駆けぬける歓び」を継続的に進化させる裏付けのようなもの。つまり“よりパワーを。”を成り立たせるための“よりクリーンに、”というわけだ。
実際に、これまでにも高効率化を目指してガソリン・エンジンの直噴ターボ化を積極的に進めてきた。最初に投入したのは、まだ『3 シリーズ』(E90)のクーペが日本市場への上陸を果たしたときであり2006年のことだ。3リットルの直列6気筒エンジンに直噴ターボを組み合わせ「335i」が搭載。その後、直噴ターボ・エンジンのラインアップは主力の直列4気筒に移るのではなくV型8気筒からV型12気筒に拡大していった。
このあたりが、いかにもBMWらしいところだ。世界制覇を目論むような販売台数を掲げたブランドではないので、まずは環境負荷が大きい大排気量エンジンから直噴ターボ化を進めていった。そして、2011年に『1 シリーズ』用として1.6リットルの直列4気筒、さらに最新モデルの3 シリーズ用となる2リットルの直列4気筒エンジンを投入。特に、2リットル仕様は3 シリーズ用としては十二分な実力を備えるだけに『5 シリーズ』、『Z4』、『X1』、『X3』にも搭載されるなど最新モデルの投入攻勢が開始されたのだ。

多くの輸入車ならこの最新モデル投入攻勢だけでも、もはや事件になる。ところが、BMWの投入攻勢にはますます拍車がかかった。ガソリン・エンジンとハイブリッドの組み合わせも直噴ターボ化と同様に『7 シリーズ』や『X6』といった環境負荷の大きいモデルから展開されていったが、その後は5 シリーズ、そして2012年7月には3 シリーズへとラインアップを拡大した。
投入攻勢は、まだ終わりではない。BMWは、2012年に入って『X5』にクリーン・ディーゼル・エンジンを搭載する『xDrive 35d BluePerformance』をラインアップに追加したのだ。3リットルの直列6気筒は、世界で最も厳しい排出ガス規制である日本のポスト新長期規制に適合したのはもちろん、BMWの走りに新しい感動をもたらした。いまや、X5のラインアップではクリーン・ディーゼル・エンジン搭載モデルが主力となっている。
BMWは、クリーン・ディーゼル・エンジンが新たな価値として市場が受け入れると判断するやいなや続く展開は怒濤の勢い。2012年の夏から2リットルの直列4気筒を最新モデルの3 シリーズに搭載し、その後も5 シリーズ、X3へとラインアップを拡大していた。また、最新モデルの3 シリーズは新グレードであるMスポーツとワゴン形状のボディを持つツーリング、さらにはフルタイム4WDシステムを搭載したxDriveモデルをラインアップに加えたことも見逃せない。

いやはや前置きが長くなってしまった。なにしろ、最新モデルの3 シリーズは2012年1に日本市場に投入されてから7月以降だけで28モデル(各モデルのデザイン・ラインを含む)もラインアップが増えたのだ。それだけに、背景を整理しておかないと収拾がつかなくなる。
結果としては、輸入車はもちろん日本車でも実現できていない、高効率な直噴ターボ・ガソリン・エンジン、ActiveHybrid、クリーン・ディーゼル・エンジンという3本柱がそろうラインアップを完成(5 シリーズも)させた。いうまでもなく「よりクリーンに、よりパワーを。BMW EfficientDynamics」を具現化させている。こうなってくると、3 シリーズに興味を抱く人がより多くなる一方でどれを選んでいいのか迷いに迷ってしまうことになりかねない。
そこで、ここでは価格についても目を見張る設定となる2リットルの直列4気筒ディーゼル・エンジンを積むニュー BMW 320d BluePerformanceを中心にして、2リットルの直列4気筒直噴ターボ・ガソリン・エンジンを積むニュー BMW 320iとその高性能版のニュー BMW 328i、さらに3リットルの直列6気筒直噴ターボ・ガソリン・エンジンとハイブリッドを組み合わせたニュー BMW ActiveHybrid 3=アクティブハイブリッド3(以下AH3)の特徴とどんな人にオススメできるかを探ってみることにしよう。

まずは、320dの価格についてだがセダンのベースモデルで470万円となる。エンジンの最高出力で並ぶ320iは450万円だ。こんなことは、常識的にはありえない。
日本車の例でいえば、人気沸騰中のディーゼル・エンジンを積むマツダのCX-5はガソリン・エンジン搭載モデルよりも約40万円割高となる。むしろ、排出ガスのクリーン化やそのための超高精度な燃料噴射システムのことを考えればコストがかさむだけに、マツダが当たり前でありガソリン・エンジンに対して20万円だけ上乗せさせるBMWの価格設定は非常に高い競争力を持つ。
では、乗ってみてどうか。まず強調しておきたいのは、価格の上乗せが控えめだからといってかつてのディーゼル・エンジンのように音がガラガラと騒がしいとかユサユサと振動するといった不快感とは無縁だということ。そして、特筆すべきは従来のガソリン・エンジンとは異質のトルク感だ。
320dの最大トルクは、38.7kgm。ガソリン・エンジンの320i(27.5kgm)と比べると、実に11.2kg-m差だ。数値的にはかなりの差があるように思えるが、320iもパワー的には必要十分以上。従来モデルの320i(セダンおよびツーリング)に対しては、直噴ターボの威力で最大トルクは6.1kgmも向上(大ざっぱにいえば軽自動車のエンジン分)しているのだ。

だが、320dに乗れば、その320iと比べるまでもなく力強さの余裕に驚かされる。単純に数値上の最大トルクが勝っているだけではない。そもそも、ディーゼル・エンジンはガソリン・エンジンよりも力強さが実感しやすいのだ。背中を押されるような低回転域からの豊かなトルクがそう思わせる理由なのだろうが、その感覚は320dに乗って走り出した瞬間に体感できるものだ。いままで味わったことのないこの加速は感動さえ覚えるはずであり、BMWの新たな魅力として納得してもらえるに違いない。
こうした余力を得ているだけに、ツーリングの場合にも320dは格好の選択対象となる。車重はセダンよりも70kg増えてしまうが、その負担を感じることがないからだ。荷物スペースは従来モデルよりも35リットル拡大し同クラスのプレミアム系では最大級となる495リットルを確保しているだけに、遊び道具をどっさり積み込み家族で週末のロングドライブを楽しむといった使い方を期待する人にとって、さらに重量が増したことさえ意識せずに済むだろう。
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