トヨタの顧客は1億5000万台…バリューチェーンで財務基盤強化

トヨタ自動車の2025年3月期決算説明会(5月8日)
  • トヨタ自動車の2025年3月期決算説明会(5月8日)
  • トヨタの収益構造
  • 宮崎洋一取締役副社長CFO
  • 収益のさらなる拡大・安定化
  • モビリティカンパニーへの変革:ROE 20%
  • 佐藤恒治取締役社長
  • Toyota Mobility Concept
  • マルチパスウェイ

トヨタ自動車は5月8日、財務基盤強化に向けた取り組みを明らかにした。環境変化の影響を受けやすい新車ビジネスに対して、補給部品や金融・保険などの、安定した「バリューチェーンビジネス」を構築していくという。


◆4610億円の赤字からの立て直し

トヨタは2009年のリーマンショックでは4610億円の赤字に転落し、手元資金は1兆5000億円にまで減少した。宮崎洋一取締役副社長CFOは「極めて厳しい状況」だったと言う。以降は損益分岐台数の引き下げを軸に財務立て直しを実施し、ROE(自己資本利益率)を10%以上で安定的に維持。台当たり限界利益は約1.6倍に向上した。

トヨタは「商品・地域軸経営」と「原価改善の努力」によって立て直しを図った。商品・地域軸経営では、各地域向けの「もっといいクルマ」開発やトヨタ、レクサスのラインアップ拡充、GRブランド育成で平均単価を引き上げ、インセンティブ抑制と丁寧な販売を進めた。また、TPS(トヨタ生産方式)実践と原価改善により、仕入先への累積3兆7000億円還元を行ないながら原価競争力を強化した。

◆バリューチェーン収益とは

トヨタの財務基盤の柱として浮上したのがバリューチェーン収益だ。環境変化の影響を受けやすい新車ビジネスのいっぽうで、補給部品や金融・保険などのいわゆるバリューチェーンビジネスの営業利益はここ数年、毎年1500億円ペースで増加し、2026年3月期は2兆円超に拡大する見込みだ。

今後はメンテナンスサービスの拡充やコネクティッド技術を活用したファイナンス・保険連携、中古車・用品事業の拡大を通じ、「保有1億5000万台の価値向上を図る」(宮崎CFO)計画だ。

これらの取り組みにより、市場変動に強いアセットビジネス中心の収益拡大・安定化を実現し、必要資本を低減する事業構造を構築する。ROE20%が、モビリティカンパニーへの事業構造・資本構成変革の進捗を測る尺度と位置付けられている。

◆「足場固め」の変化、「種をまく」

トヨタ自動車は、環境変化に柔軟に対応するため、「稼ぐ力」を維持・向上させる方針も示した。量産車での原価低減は当面の収益力を高めると同時に、モノづくりの原理原則を学ぶ機会とも位置付ける。佐藤恒治取締役社長は「生産性を追求し、自ら考えて行動する現場こそがトヨタの競争力の源泉だ」と強調した。

「足場固め」の取り組みは、2025年度も継続する。まずは「1000万台のクルマづくりを支える現場力」と、未来に向けた「多様な挑戦を続ける実行力」を発揮できる環境づくりを推進。足場固めは当初、安全・品質の徹底や正しい仕事の実践による基礎体力回復、いわば「出血を止める」ものであったが、現在は「未来への種をまく」取り組みへと変化しつつあるという。佐藤社長は「そして、その基盤を活かして、クルマの未来を変える挑戦をしっかり進めていく」と述べた。


《高木啓》