田中貴金属工業は、名古屋大学・鳥本研究室との共同研究により、近赤外領域の光に応答する鉛(Pb)を使用しない貴金属量子ドット材料を開発したと発表した。
■開発の背景
赤外光を使ったセンシング技術は、3Dセンシング、ウェアラブルデバイス、スマートフォンの顔認証、産業用検査カメラ、自動車用LiDAR、生体センシングなど幅広い分野で活用が進んでいる。
これまで赤外受光材料としてはインジウム・ガリウム・ヒ素(InGaAs)が主流だったが、製造工程が複雑でコストが高く、原料のインジウム(In)は需要拡大に対して産出量が限られるため安定供給が課題となっていた。
代替材料として硫化鉛(PbS)を用いた量子ドット材料が注目されているが、PbSはEUのRoHS指令の規制対象物質である鉛を含むため、民生用電子機器への採用が制限されていた。
■開発した材料の特徴
今回開発した材料は、銀・硫黄・テルル(Ag-S-Te)を主成分とする化合物半導体量子ドット材料だ。鉛やカドミウム(Cd)を含まないため、RoHS規制の対象外となる。
田中貴金属の性能評価では、このAg-S-Te量子ドットを簡易的な光センサの受光層として実装したところ、波長1200~1700 nmの短波長赤外(SWIR)光に対して最高18.4%の外部量子効率(EQE)を達成した。この波長帯は太陽光によるノイズや悪天候の影響を受けにくく、屋外でも高精度なセンシングが可能だ。
また、真空プロセスを必要とせず印刷プロセスで製造できるため、InGaAsと比較して10分の1程度のコストでセンサを製造できるとされている。
スマートフォンの顔認証などの3Dセンシング、自動車用LiDAR、産業用検査カメラ、生体センシングなど幅広い分野への実用化が期待される。
■カスタマイズとリサイクル技術
田中貴金属は名古屋大学との共同研究を通じて、量子ドット材料の組成制御・粒子径制御・表面改質技術を開発してきた。顧客の要望に応じた光学特性のカスタマイズにも対応する。
さらに、田中貴金属が長年培ってきた貴金属リサイクル技術を活用し、製造工程の端材や使用済みサンプルから貴金属を回収・精製することで、初期評価コストや量産時のランニングコストの低減にも貢献する。
■今後の展開
本材料は2026年11月1日~6日に沖縄で開催される国際学会「オキナワ コロイズ」、および同年12月16日~18日に開催される「ナノテック 第26回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」で紹介される予定だ。2027年1月よりサンプル提供を開始する予定としている。




