一滴のガソリンも無駄にしないテクノロジーと
その性能を引き出すドライビング・テクニックとは?
「クルマはEfficientでも、ドライバーがEfficientに走らせないと、本当のEfficientにはならないのです」。そう切り出したのは、モータージャーナリストの菰田 潔氏。今回は「BMW ドライバー・トレーニング」のチーフインストラクターでもある同氏に、BMW 320i Hi-Line パッケージを東京都内で運転してもらいながら、最新のテクノロジーとその性能を引き出すドライビング術を語ってもらった。(聞き手:レスポンス編集部)
菰田 潔(こもだ きよし)
「BMW ドライバー・トレーニング」チーフインストラクターの肩書を持つモータージャーナリスト。年間200台以上の最新モデルに試乗しつつ、最近はスポーツドライビングやセーフティドライビングに加えて、エコドライブの普及にも力を入れている。
具体的な技術や運転の仕方について話す前に、まずはメーターのオンボードコンピューターを見てください。次の給油までに走れるレンジ(航続可能距離)が今、543kmって表示されていますよね。いい走りをしていると、これが走行中でもどんどん増えてゆきます。つまりレンジを伸ばすように運転すると、結果として燃費のいい運転になるわけです。
では燃費を良くするにはどうしたらいいかと言うと、まずは道路環境に合わせた上で、一定のスピードで走る距離を長くすることが大切です。なるべく高いギアを使い、エンジン回転数を下げ、エンジンの爆発回数を減らす、つまり燃料噴射を減らすことが低燃費にとても有効だからです。

逆に、止まらなければいけないと分かったら、すぐにアクセルを戻すことも重要です。アクセルを戻している間は、燃料噴射がカットされるので燃料は食いません。そしてアクセルを早く戻すには、運転中に先を見ることが重要です。それは実は安全運転にもつながります。エコと安全は、突き詰めると同じ運転になってくるわけですね。
今日運転している320iには、ブレーキ・エネルギー回生システムが採用されています。これは減速中に運動エネルギーを電力として回収し、バッテリーに充電してくれるもので、バッテリーの充電量が8割以上あれば、加速時に発電機の作動を止めてエンジンの負荷を減らします。つまりアクセルを戻す時間を長くすると、このクルマは燃費や加速も良くなるんです。

最近のBMWには(エンジンオイルの量や状態を見る)ディップスティックがないって知ってましたか。その代わりにBMWでは、イグニッションをオンにした時に、次回の点検整備までの距離がメーターに表示されます。表示される距離は、それまでクルマを使用していた時の温度やエンジン回転数、ガソリン消費量によっても変わってきます。つまりいい走り方をすると、オイル交換までの距離も伸びるんです。またオイル量はiDriveを使うことで車内からでもチェックすることが出来ます。よく「iDriveは要らない」っていう方がいるんですけど、こういった機能があることをお話すると、「絶対欲しい」に変わりますね(笑)
それからエンジンオイルの交換時期は、国産車では1万kmごとが多いのですが、BMWではエンジンの高精度化、高性能オイル、高性能フィルターによってオイル交換の頻度を減らし、3万kmを基準値としています。つまり国産車では5万kmで5回換えるのに、BMWでは1回しか換えないということです。それはリサイクルが難しい廃油を環境のためにはなるべく出さない、という考えから来ているんです。


ドイツでは州によって多少異なりますが、基本的に停止中のアイドリングは法律で禁止されています。そのためBMWではエンジンを止めた後でも、多くの日本車と違ってウインカー、ワイパー、パワーウインドウ、オーディオ、ナビをしばらく使うことが出来ます。またエンジンのスタート/ストップ・ボタンも、こまめにエンジンを切ったり掛けたりするためのものです。無駄なアイドリングをしないという考え方が徹底しているんですね。
ちなみに1分間のアイドリングで消費する燃料は、初期のインジェクション車だと20~25ccくらいで、今でも10数ccというクルマが多いのですが、この320iの2リットル直噴エンジンはわずか7.5ccです。MINIクーパーSの1.6リットルターボでも8.6ccですから、これは特別に少ないんですよ。

3 シリーズには今、4気筒の320i、6気筒の325i、それから6気筒ターボの335iがあります。どれを選ぶかは、どの速度域で走るかに依ります。例えば制限速度が高いドイツでは、140~150km/hまでなら320i、170~180km/hまでなら325i、200km/hオーバーなら335iというのが目安になります。もちろんシルキーシックスと呼ばれるBMWの直列6気筒が好きな方なら、325iや335iがいいですね。エンジンパワーにも余裕があるので、長距離ドライブも楽になります。
それでもBMWのエンジンは6気筒だけでなく、4気筒もすごくいい。どうしてかなと考えてみると、それはおそらく自社に、すごくいい6気筒があるからだと思うんです。6気筒に負けないように4気筒でも同じレベルを目指して作っているからではないかと。この320iのエンジンも実用域でとても力強く、こうして4名乗車で乗っても、まったく不満がありません。
それから320iはハンドリング性能もいいですね。6気筒より全長の短い4気筒を、エンジンルームの先に空間ができてしまうくらい、クルマの中心に寄せて搭載しているので、重量配分がいい。おかげで回頭性が高まり、コーナーの入り口でとても気持ちよく曲がってくれます。それはこの320i Hi-Line パッケージでも変わりませんし、スポーツ・サスペンションを装備したM Sports パッケージなら、さらにスポーティな走りが楽しめます。


これだけの環境性能を持ちながら、BMWは3 シリーズを決して「エコカー」とは呼びません。あくまでもBMWの根本は「駆けぬける歓び」であって、そのためのDynamicsがあり、なおかつEfficientである、という順番なんです。今までの性能を維持しながら、さらに効率を追求するということです。
BMWを運転する時、いつも感じるのは、クルマのことをすごくよく分かっている人間が作ってるな、ということです。単に10・15モードの数値を良くするとかではなく、日常的な運転の中で、ドライバーがどうしたいか、どう反応するか、それをどうクルマ作りに反映させるか、といったことを考えている人たちがクルマを作っている。だから自然とこういうクルマが出来上がるのです。
BMWの役員もニュルブルクリンクを走るんです。BMWでは、ニュルブルクリンクを走れない人は、クルマに対する意見も言っちゃいけないことになってるんですね(笑)。実は数年前にニュルブルクリンクをM3で全開で走るような方に、サスペンションのことに質問したら、どんなことでも答えてくれる。よくよく話を聞いてみると、実はその方はBMW、MINI、ロールス・ロイスのサスペンションの設計部長だったということがありました。それくらい運転が巧い人がBMWを作っているわけですね。これはクルマ作りの根本の、レベルが違うなって思いました。最近はまた、ひしひしとそんなことを感じますね。
