サーキットでなければ、限界は垣間見ることができない

もちろん解る人には、すぐに解るだろう。しかしながら見た目は決して派手過ぎることはなく、普通にAudiのA3だと思う人は多いに違いない。何か違うなと思ったとしても、ちょっと迫力ある?というぐらいで、ワル目立ちする要素は無いと言っていい。
けれど、そのサウンドを耳にしたら、多くの人がコレは只者ではないとすぐに悟るはずだ。その排気音、そしてエンジン音は野太いだけでなく、どこか揺らぎの成分が入ったような個性的な響きで、思わず振り返ってしまう。
この独特のハーモニーを生み出しているのが、Audi RS 3 Sportsbackの心臓、直列5気筒2.5リットルTFSIユニットである。そのスペックは最高出力367ps、最大トルク465Nmと強烈。7速Sトロニックデュアルクラッチトランスミッション、RS3専用にチューニングされたフルタイム4WDシステムquattroが、前後235/35R19サイズのタイヤへそのパワーとトルクを伝達する。

予想通り、走りの印象はこのエンジンの強烈な個性に支配されている。1625rpmという低回転から最大トルクを発生するフレキシビリティの高さはもちろん、右足に軽く力を入れて回転が高まりはじめた時のルルルル……という4気筒とも6気筒とも異なるまさに5気筒ならではのサウンドが、堪らない気分にさせるのだ。
そのまま更に深く踏み込めば、まさに一気呵成にトップエンドまで吹け上がり、仰け反るような加速を味わえる。回転が高まるごとに音が澄んできて、吸い込まれるように回り切る迫力は、まさに圧巻。レッドゾーン直前でパドルを弾けば、Sトロニックは電光石火のシフトアップで、それに応える。夢中になって、何度も加減速を繰り返したくなってしまう。絶対的なパフォーマンスはもとより、そのフィーリングで魅了させるのである。
支えるシャシーが、また素晴らしい。まず驚かされるのが乗り心地の良さで、サスペンション自体は決してソフトではないのに、そのストロークがいかにもスムーズなおかげで上質感たっぷりなのだ。これにはカチッと剛性感の高いボディの貢献度も大きい。内装の建て付けもさすがアウディらしくしっかりしていて、鋭い入力を受けても、ミシリとも言わないのだ。
もちろん本領を発揮するのはハイペースで鞭を入れた時。専用チューニングのクワトロシステムは、後輪への駆動力配分比がAudi A3やAudi S3より増やされていて、状況に応じて50〜100%にも達する。バリアブルレシオ化されたステアリング、拡大された前後のトレッドも相まって、簡単に言えば、より舵が効き、後輪の蹴り出す力も増えているということ。積極的に攻めるほど応えてくれるシャシーとなっている。

もっとも公道レベルでは、かなり頑張ったつもりでも限界を垣間見ることなど不可能だろう。その意味では、RSモデルの本籍はやはりサーキットだなと実感する。
しかしながら特にこのAudi RS 3 Sportsbackは、日常的なシチュエーションでも十分に快感をもたらすクルマに仕上がっているのが嬉しい。エンジンを思い切り唄わせなくても、それこそ街中のゴー・ストップでも爽快感を味わえる。いつでも取り出せる図太いパワーとトルクが、運転に余裕と自信を漲らせる。精度感高いシャシーは、何気ない瞬間にも良いモノ感を味わわせてくれる。
冒頭に記したように、見た目は解る人には解るくらいの違いである。しかし、その車内でステアリングを握る者は、まったくの別物と言ってもいいほどの快感、そして充足感に身を委ねているのだ。実はアウディのRSモデルはどれも、こうした感動が濃厚なのだが、とりわけ車体がコンパクトなだけに、特有の凝縮感がさらに色濃く感じられるのが、このAudi RS 3 Sportsbackというわけなのだ。

Audi RS 3 Sportsback
内に秘める喜び
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