Audi A3 Sportsback e-tronを、愛車目線で確かめた結果

文:太田哲也

今回のAudi A3 Sportsback e-tronの試乗記事作成にあたり、私を執筆者として選ばれた決め手は、充電設備を設置できる一軒家住まいであったことらしい。つまりモータージャーナリストとしてよりも愛車目線で試乗できる人という括りだったようだ。

最近、プラグインハイブリッド(PHEV)が特にヨーロッパメーカーから続々と登場している。その理由はCO2排出量制限のレギュレーション変更により、PHEVをラインナップに加えると有利となるメーカーのお家事情によるものだが、ではユーザーにとってはどうなのか。魅力的な商品なのか。そんな視点で試乗してみることにした。

まずは試乗に先立ち、そもそも私のPHEVに対する印象を述べておこう。一言でいって面倒臭そう。走行中に電池の蓄電状態によって出力が変わり走り方も変える必要がある。ジャーナリスト向け試乗会であれば、充電モニターを見てEV走行かエンジンも使っているか給電状態かなど業務上の興味は湧くけれど、実際に自分で買って日常的に使うとなると、煩わしく感じはしまいか。何よりも音質や乗り心地、走行性能に満足できないだろうと考えていた。

さあ、まずはEVモードで走り出してみよう。最初の感想は「意外に走るなぁ」「とろとろしていない」というものだった。Sモードを選べばさらに活発になり、平坦路であれば交通の流れをリードすることもできる。これで航続距離が約50km、まあ実走行においてはその半分程度だとしても、自宅(東京都世田谷区)と会社(横浜市都筑区)往復にEV走行だけで十分事足りる。

自宅に、もしくは会社に充電器を設置してそこで充電すれば、日常使いでガソリンを使わないですむ。と言っても、車両価格564万円、CEV補助金やエコカー減税、自動車グリーン税制などにより、約82万6000円の優遇があるとはいえ、この価格を出す人に燃料コスト削減効果はさほど響かないかもしれない。しかし、「あ、燃料がない」と気づいてガソリンスタンドに行くのが面倒臭いと思う人は多いのではないか。少なくとも私はそうなのだ。

Audi A3 Sportsback e-tronは、なんと言っても、このEVモードで走るときの元気の良さ(普通のクルマ並み)がその他のPHEVとの大きな差と言えよう。EV走行からエンジン併用に切り替わる際も自然でスムース。運転者にはわかるがおそらく同乗者にはわからないのではないか。この点も他とはキャラが違う。EV走行時と大げさに出力特性が変化しない。これをもってメリットかデメリットかの判断は人それぞれだろうが、この特性の方がPHEVを意識せずに済むのは間違いない。

また従来のPHEVやEVに共通する難点として、エンジン音が静かになった分、タイヤのノイズや風切音がやけに聞こえてくることで、その際、エンジン音は耳に心地よいのだがその他の音は高周波で耳障りがよくないというものがある。音量としては静かになっても、音質は嫌な音が聞こえてきがち。この点に関して、Audi A3 Sportsback e-tronは遮音性が高く、普通に静かで気にならなかった。ボディ剛性も高くサスペンションのチューニングもよく、小さいサイズの割には振動制御も乗り心地もきちんとしつけられていた。

Audi A3 Sportsback e-tronはベースモデルのA3に比してPHEV化に伴う重量増が約200数十キロだそうだが、ワインディングを飛ばしてみてもそれほどフロントヘビーな感じはなく、スポーティーな印象さえ受けた。つまり、普段はA3と同様な使い方をしつつ、通勤にはほぼ燃料代がかからないという、個人的にもかなり食指が動かされる魅力を持つクルマだったことを報告しておこう。
太田哲也
三浦和也
【太田哲也×三浦和也 特別対談】 Audi A3 Sportsback e-tronと
Audi RS 3 Sportsback
内に秘める喜び
The new Audi A3 Sportback e-tron debut